よろづ
上の兄弟にギンザン、タイガマル、ロウガマル、テンコンスリポンを持つことになったバトロボの名を、ネイムという。
少年のような振る舞いが目立つネイムは、翼が生えた蛇の姿をしていた。ファイターモードは細身で、この体躯から異様に重たい蹴りが繰り出されるとは、誰も思わない。
「テンコンスリポン、どこに行きたい? 運んでってあげるよ!」
タイガマル、ロウガマルより拳一つ分背が小さいネイムは、いつもこうしてテンコンスリポンを構っては、楽しそうにしていた。
「あ、ネイムは、テンコンスリポンが、だぁいすきで候〜」
「まったく仲の良い事……でござる!」
上の兄弟たちが、小さな亀と大きな蛇の二人の仲をからかう。
仲良しなのはタイガマル、ロウガマルの二人組とて同じことなのだが、見事に棚にあげていた。
「テンコンスリポンは兄さんたちと違って変な悪戯しないからな」
さらりと返すネイムは小さな亀のバトロボを肩に乗せ、その亀のリクエストに答えるようにダイクーン教授の元まで歩いていく。
変な悪戯と称されて、上二人の表情が変わった。明らかに気分を害した様子である。
「あ、俺様たちの作戦のぉ〜、ど〜こ〜がぁ〜」
「変な悪戯だというのでござる!」
「毎度ギンザン兄さんに怒られてるじゃないか。それが証拠だよ」
生意気なことを言われたままでは、ダイクーン教授の元まで行かせるわけにはいかないらしい。二人はネイムとテンコンスリポンの前に立ちふさがり、いわゆる通せんぼをしていた。
「あれは、ギンザンが怒りっぽいだけ〜でぇ、候!」
「拙者たちは、ただ」
「良い思いつきを、あ、実行しただぁけ〜!」
「交互に喋らないでよ、分かりにくいなぁ……というか、その良い思いつきが良い結果を生んだことがないから、変、って言ってるんだよ!」
「生意気な弟めぇ」
「おのれ減らず口を……でござる!」
ネイムの肩の上からテンコーン、と声がする。
教授の元へ行きたくてたまらない小さなバトロボが、ネイムの肩でたしたしと足踏みしている。
大好きな兄弟が親の元へ行けないのを歯がゆく思い、ネイムは二人を押しのけて通ろうとした。が、二人はぐっと力をこめて押し返してきて、なかなか進めない。
「兄さんたち、邪魔だ!」
「俺様たちを馬鹿にした事、後悔させてやるで候」
「とことん意地悪してやるでござるぅ」
「すっごい悪巧みしてる顔だな二人とも……もう、どいてくれよ!」
たかだか教授の元に行くだけで、何故こんなに労力を割かねばならないのだ!
不満たっぷりに声を張り上げた直後だった。
ごつん! と音がして、タイガマルとロウガマルが一斉にしゃがみこんだのは。
「……弟を苛めて楽しいか、貴様ら」
ギンザンがリボルバーを構えて、二人の後ろに立っている。
恐らくリボルバーを使って拳骨のようなものを見舞ったに違いない。
銃の使い方を間違えているのだが、とにかく助かった。
「今だ、行こう、テンコンスリポン!」
「テーンコーン」
ギンザンに礼を言い駆けていくネイムを見送り、ペガサスとユニコーンが合体したようなバトロボの彼は、頭を抑えて蹲る二人を見下ろした。
呆れたようにため息を一つ。
「弟に構いたいからと言って意地の悪いことをするんじゃない」
父さん、テンコンスリポンがね、と教授に話しかけるネイムを見て、タイガマルとロウガマルは「だって」と口を揃えて返した。
「あ、兄さんと呼ばれてはぁ」
「嬉しくないわけが」
「な〜いぃ〜でぇ候」
「だからと言って苛めるな」
ダイクーンはテンコンスリポンの甲羅を優しく撫でながら、向こうで座り込んでふて腐れている虎と狼に気づいたらしい。
ネイムを作ってからというもの、何かと兄貴ぶりたがる二人に小さく苦笑し、二人に構い倒されては不満げに応戦するネイムを見守る日々だ。
騒がしきこそ、我が家。
何だかんだで平和な一家は、今日もアジトという名の自宅で、なんでもない時間を過ごしている。
騒々しい幸福