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ろづ
笑んで眠れ 2/3

 友人とナマエは走っていた。
 どこだか分からない町を。
 見れば町の住人は皆顔がのっぺりとしており、どこか魚を思わせる風体である。
 町から離れようと思わず海辺に走りこんだ二人は、そこで足を止め、青ざめた。
 海のほうから……沖合いから、この町の住人がざぶざぶと泳いできたのである。
 体中に鱗が生え、背びれが目立つその様は、まさに半漁人という言葉がぴったりだ。後ずさると、背後にも町の住人。完全に逃げ場が失われた状態に、ナマエは思わず目を閉じ、両手の指を絡めていた。
「お願い……神さま、いるなら助けて! お願いします! こんなの嫌だ……!」
「言ってる場合じゃないよ、ナマエ!」
 焦ったように叫ぶ友人がナマエにすがり付いてくる。魚人たちの手がナマエの背中をぞろりと撫でた。もう駄目だ。二人ともそう思った直後のことだった。

 波の音がしたのは。

 波を掻き分ける音がしたのは。

 半漁人たちが沖のほうを見て口々に何かを叫んでいる。何を言っているのかは聞き取れなかったが、恐怖しているらしいことは何となく分かった。呆然と沖を見つめるナマエの目に飛び込んできたのは、イルカだった。
 イルカと……それから、ひれのようなものがついた馬?
 それらが引くのは、多きな貝でできた乗り物だ。
 筋骨隆々の老人が乗る貝は、まさしく戦車といって差し支えなかった。
「何、あれ」
 思わず友人が呟く。
「ありえないでしょ……」
 友人の言葉にナマエは否定も肯定もできず、ただ事態を見守るしかできない。
 苦し紛れだろうか、半漁人が友人を掴み、どこかへ連れ去ろうとする。悲鳴を上げて抵抗する友人を見て、貝に乗った老人の表情が険しくなった。何かを叫ぶ。しかし雷鳴のような音でかき消され、聞こえない。
 かっ! と強い光がナマエの背後を照らした。
 雷が実際に落ちたのだった。
 友人を掴んでいた半漁人が消し飛ぶ。と、同時に友人の右腕も雷に撃たれて弾けとんだ。
「いやあぁぁあ!」
 血しぶき。鮮血のシャワーが海辺に舞う。友人が錯乱して海へと走っていくのを、ナマエは止められなかった。友人は恐怖の表情でばしゃばしゃと海に入っていく。
 たくましい老人を乗せた戦車がその上を通り過ぎていった。
 跳ね飛ばされた友人はばらばらと崩れ落ちながら砂浜に打ちあがり、それがナマエの恐怖を呼び起こした。
「あああぁぁぁぁ!」
 叫ぶナマエに老人はたくましい笑顔を見せる。何がおかしいのだ。友人は死んだ。目の前で死んだ!

 老人が言った気がした。
 ここは危ない、と。
 安全な場所まで連れて行こうと。