よろづ
双つは食む 2/2
振り向いた。
そして言葉を失った。
体中の血液が逆流するかのような恐怖があった。
赤黒い肉塊から無数の触手が生えた、巨大な何かが鎮座しているのだ。
まるで映画の祟り神のようにも見えるが、こちらは素早く疾走する事などないだろう。ゆっくりと脈打つように触手がずるりずるり、伸び縮みしていた。
いつのまに背後に現れたのだ、この肉と触手の塊は。
不気味な姿に悲鳴をあげようにも、喉は嗄れてしまっていた。
「あ、ぎぎぃ……が」
まるで人の言葉ではない呻き声が腹から出てくる。なんて醜悪な見た目をしているの。その一言は獣の唸り声になって口から飛び出る。
自分が人でなくなっていくような感覚が脳を震わせた。まともな言葉を発せられない。そもそも自分がまともだったのか思い出せない。
目の前のこれは何だ。目の前のこれは誰だ。
誰?
人格を持っているのか、これは?
心臓が警鐘を鳴らす。早く逃げろと頭が痛む。逃げなければ、そうだ、逃げなければ。
小柄な人々が通っていったたった一つの出口目指して、ナマエは走り出していた。
「あぎゃぎゃっ、はっ、きいぃぃ!」
不定の狂気に満ちた悲鳴をあげながら。
それがお気に召さなかったらしい。
肉塊が唸るような大きな音を立てて、縦方向へめりめりと裂けていく。触手まみれの肉の塊から飛び出してきたのも、触手まみれの肉の塊であった。
勢いよく飛び出た少しだけサイズの小さいそれが、走るナマエの頭上を越していく。
そして、たった一つだけの出入り口を塞ぐようにして着地し、触手をナマエへ向かって伸ばし始めた。
「いやっ! いやぁぁ!」
触手から逃れようと振り返った先。
そこには巨大な肉塊からの触手が待ち受ける。
ああ、これらは兄弟なのだな。
何とはなしにナマエはそう思った。
肉塊と触手で構成された兄弟なのだと、核心もなしに予想した。兄の中に弟が潜んでいたのだ。しかしそれを理解したところで何もかもが遅かった。
ナマエは兄と弟の触手に絡め取られ、縦二つに裂かれた。
びりっ、と破ける音がした。
ダレでもヨカタ、オマエでヨカタ。
双子の兄弟は食事をするのだ。