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ろづ
双つは食む 1/2

 カフェで怪しげな男に声をかけられたのは覚えている。
 ナマエの身長の半分ほどしかない男の口上は、世の中に退屈していないかという胡散臭い内容だったので無視をした。
 それでもしつこく男は話しかけてくるもので、ナマエは閉口しながらコーヒーを飲んでいた。
「神様テいるじゃン?」
 独特の訛りのようなアクセントがある。
 その言葉に、ああ宗教勧誘か、と嫌気がさしたのも、はっきり覚えている。

 それから後のことは何も覚えていなかった。
 おそらく飲んでいたコーヒーに薬を盛られたのだろう。気を失い、気がつけば薄暗く大きな空間に転がっていた。
 コンサートホールにでもする予定だったのか、中央に向かって低くなるように段差が作られている。段差の一番上の一点だけに出入り口があり、そして一番下のど真ん中にナマエがいた。
 辺りを見回す。ナマエの身長の半分ほどしかないだろう人々が取り囲んでいた。カフェで話しかけてきた男とよく似ている。
「コレでイィ」
「後はオコシにナルだけね」
「タイサン、タイサン」
 片言の日本語のように聞こえる言葉で彼らは何かを言う。それが何なのかナマエ分からなかったは、思わずふらつく体のまま駆け出し、一人の腕を掴んだ。
「どういうこと!? これは何!?」
「ダレでもヨカタ、オマエでヨカタ」
 手を振りほどいた彼は何でもない事のように言って立ち去ってしまう。
 やがて薄暗い空間にナマエ一人だけとなった。
 それがたまらなく心細くなり、自分の体を撫でさする。
 誘拐か、人身売買か、それとも日本人を狙った何らかの犯罪か。想像するだけで恐ろしい。鳥肌が立つ。
 自分はどうなるのか。殺されるのか。そんな事まで考えて、鼻を掠める血潮の匂いに吐き気がした。
 血潮の匂い。

 なぜ、血の匂いがするのだろう。