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ろづ
深海の腹に飲まれる 1/3

 とある冒険者が日本海にて巨大な影を見たというので、あなた……ナマエは興味本位で近づいてみることにした。
 もしやUMAではと思ってのことだ。
 日本海に出るUMAなど聞いたことがないが、南極の海にはニンゲンと呼ばれる大きく不気味な人型の何かがいるという。その縁者ではないかと疑い、ナマエは調査に乗り出した。
 ここ最近の日本海はおかしい。
 風がある日もない日も、波一つたっていない。
 荒れるならばまだしも、月や引力の関係で起こる「波」がないというのだから、不自然極まりないのだ。海の表面が恐ろしく静かなとき、海の中では何が起こっているのか。まったく想像も付かない。
 ナマエは未確認生命体に興味を持つ、ただの一般市民。どこかの編集者でもなければ新聞記者や学者でもない。しかし情熱はあった。
 無理を言って船を出してもらう。
 奇怪な影を見たと噂されるエリアまで船を走らせ、止めてもらった。
「……何もないように見えるけど」
 濃い青緑色の海原が広がるだけで、巨大な人型の影など見当たらない。UMAだけに移動でもしているのだろうか。ならば追いかけねばなるまい。
 そう感じたナマエが船の操舵者のほうを振り向き、違和感に気づいた。
 操舵者がひどく怯えているのだ。
 噂を聞いて臆病風に吹かれただけとは、到底思えない震えぶりだ。
「どうしたんですか?」
 尋ねた。
 尋ねて、後悔した。
「分からないのか、あんた……巨大な影はすぐそこにいるじゃないか」
「……巨大な影があるんですか?」
「下だ! すぐ下だよ! あんたは海が深いから濃い青に見えているんだとでも思っているんだろう! 違う!」
「まさか」
「この青緑の濃い影すべてが、何者かの影なんだ!」
 波一つない海原で、船がぽつりと浮いている。
 誰かの上で、ごみのように。
 圧倒的な巨大物の存在を知らされたナマエは。恐怖におののきながらも船を出した操舵者を見たナマエは。
 UMAなどでは片付けられない恐怖を体の芯に感じ、足元を見ることができなくなっていた。
 誰かの視線を感じていた。