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保険医が看病すると痛い(桃桃桃子)

「う〜……」
 ベッドで苦しそうな声をあげる桜花先生を、桃桃桃子はうっとりとした表情で眺めていた。
 学園も常時開放されている訳ではない。消灯する時間になれば原則として立ち入りは禁止されるし、学生や教師は寮に戻るか家に帰るかで、人気は無くなる。
 風邪を引いてうなされている桜花先生をそんな寂しい場所へ置き去りにする等考えられない桃子は、私に任せなさい、あはん、と全く任せたくならない台詞を吐いて、彼女をお持ち帰りするに至ったのだった。
「あん、桜花……大丈夫? 熱を測りましょうねん」
 馬鹿みたいにでかい胸を桜花先生の顔に押し付けながら、体温計を彼女の脇に差す桃子。
「あうぅ……気持ち良い水枕……ぷにぷにの」
 柔らかな枕を押し当てられたに等しい桜花先生は、気持ちよさそうに目を細めて半分ほどまどろんでいた。何が何だか、分かっていないだろうと思われる。
「あらぁ、やっぱり高いじゃなぁい……v」
 何故か語尾にハートをつける保険医は、白子と知子に指示を出す。速やかに、かつ静かに、という長女の言葉に、白子は「姉さんが一番静かにね」と毒づいてから出て行った。
 しっし、と妹たちを追い払った桃子は、汗ばんだ桜花先生の服に躊躇なく手をかける。
「……ふえ?」
 素肌をひんやりとした空気が撫でるのに、一瞬意識を取り戻した桜花先生。
「こんなに濡れちゃって……駄目よ、桜花。冷えちゃうわ」
 お前が濡れるとかいうと別の意味に聞こえるからやめろ。
 そうして、熱におかされぼんやりとしている桜花先生の服を脱がし始める桃子は、クローゼットから自分自身の下着と服を取り出し、躊躇なく着せていく。
 汗を拭い、優しく横たわらせ、その上に覆いかぶさる。
 何故だ。
「お、う、かvゆっくり休んでねん」
 間近で彼女の顔を見つめる桃子。
 お前のせいでゆっくり出来ないんだよ。
「姉さん、雑炊を作って来た……から、どいてくれ。即刻」
 白子の冷たい言葉が桃子に投げられる。
「お姉ちゃん、タオルと水よ。……いやん、お楽しみの最中だった?」
「知子、頭から病だれを取り払え。痴女は一人で十分だ」
 桃子と似たような反応をする知子にも冷たく言い放つ白子。この三姉妹、色々と嫌である。
「はぁい、桜花……白くてどろっとした物、口に入れましょうねんv」
 雑炊である。
 雑炊を食べさせるだけで誤解が生じる保険医である。
 唯一の救いは、桜花先生の意識が朦朧としていて、このやり取りが頭に入っていかなかった事だろう。何も覚えていて欲しくないと、白子は思った。
「どぉ? 濃厚な味でしょう? 白子特製の雑炊はねぇ、栄養がたぁっぷりなの」
 食欲もないだろうに黙々と食べてくれる桜花先生に微笑みを向け、桃子は汗で彼女の額にはりついた髪をどかす。
 苦くないお薬、用意するからねん。
 とことん彼女を甘やかそうという魂胆なのか、嫌に密着しながら桃子は言った。


「……という事で、私と桜花は濃厚で熱い一夜を過ごしたのよんv」
 取材と銘打ってヤジ馬に来た妄想科の生徒たちに、頬を赤らめながら語る桃子。途中途中で同じ保健室にいる白子の訂正と解説が入った話を聞きながら、メモを取っていた彼らは肩を落とした。
「割と……普通だったね」
「……桃子先生クオリティなだけで、中身はただの看病だったという訳か」
「でも妄想で何とかなるよね」
「妄想じゃなくても何とかなりそうな話し方だったよね」
 ミーシャ、マーキ、心、相の順で各自の感想を述べる取材班。
 そんな取材班に、桃子は怪しい笑みを浮かべて近づいていく。

「それで……情報を提供したんだから、情報料を頂かないとねぇ?」

「「え?」」
 にじり寄る桃子。
 がらがら、ぴしゃ。という音に振り向けば、扉を閉め、立っている白子の姿。
「「……あれ?」」
 艶かしい腰つきで学生たちを追い詰める桃子は、手をわきわきと動かして距離を詰めていった。

 保健室に四人の悲鳴が揃って響く。
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