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「#幼馴染」のBL小説を読む
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どうせ必要悪さ(妖:青田)

 こんな噂がある。
 真夜中に太い木の根元で青坊主を呼ぶと、本当に現れて首をつられる。
 その噂を流したのは青坊主本人だった。
 その噂を信じたのは、沢山の少年少女だった。


「お嬢さん、首、つらないかい?」

 小柄な少女に声をかける。肩がびくりと揺れ、少女は後ろを振り向いた。
 肌も髪も目も服も青い、首に縄をかけたその人物を見て、少女はこれが青坊主なのだと認識する。
 少女の目はうつろだった。
 青坊主はかすれる声で少女に声をかける。
「死後の世界へのお手軽ツアーと洒落込みません?」
 にこやかな表情で、手をひらひらと振りながら尋ねる青坊主。
 少女は。
 頷いた。

 少女はマキという名前だった。
 マキは両親から捨てられそうだった。
 両親は離婚するらしい。親権を互いに押し付け合い、此方は養う金がないだの、此方は散々育ててきたのだから其方が引き取れだの、酷く罵りあっていた。
 どちらからも必要とされないマキは、次第に親に心を閉ざすようになり、何も話さなくなった。両親はそれを見て、更にマキを煙たがった。
 親と口も利かないような娘と二人で暮らすなんてまっぴらだと。
 マキは寂しかった。愛してる、の一言が欲しかった。昔のように三人で笑いたかった。無理だと分かっていた。
 逃げ場が無い。苦しい。苦しい。
 誰か助けて。
 助けて青坊主さん。
 死に物狂いで大木の根元まで走ったのは、その直後のようだった。

「お嬢さん、首をつるかい?」
 乾いた声で青坊主が問いかける。
「……お願いします」
 マキは抑揚のない声で淡々と答えた。
「あーぁ、可愛そうにねぇ」
 ハスキーな成人男性の声で青坊主が呟いた。髪を掻き毟る。
 苦笑いにも似た弱い笑みで少女を見下ろす青坊主は、震える声で続けた。
「辛かったろうねぇ?」
 少女は顔をあげ、青坊主を見る。
「今まで頑張ってきたね?」
 唇がわなわなと振動するのにも構わず、青坊主は告げている。
「どーも、お疲れさんでした」

 大粒の涙を零して笑ったのが、その少女の最期だった。


「……死ぬしか救いが無いって、どうなってんだろうねぇ、この世は」
 目を乱暴に擦った青田防人がげんなりとした様子でぼやく、。
 目の前で木の枝にぶら下がっている少女は苦しかったろうに安心したような顔つきをもしていた。
 眉間に皺が寄るのを感じ無理に笑ってみたが、般若っぽいなと自分で感じたので溜め息をついておいた。
「いや私も人の事いえないけどさ?」
 死ぬ前に救われる子がいたって良いのにねぇ。
 寂しそうな鼻声が林に空しく響くのが、青坊主の心を更に空っぽにした。
 
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