ラーメン屋台が止まったようです(妖:釘三姉妹)
「つっまんねぇ! 客全然こねぇし!」
廊下の一角で急ブレーキをかけて、三女がぼやいた。
「そりゃあ猛スピードで爆走してたらお客さんが来られる訳無いじゃない!」
次女であるボックがひきつりながら苦言を呈する。
「うるせぇブス」
が、デュンケルはべぇっと舌を出すだけで反省の色は無かった。
何とも仲が悪い次女と三女である。
「立ち止まっている今なら来るんじゃないの」
大量の魔力で屋台全体を守っている長女のアインベッカーが事も無げに呟き、次女と三女の喧嘩を止めていた。
この三姉妹において、長女の権力は絶対的だ。
止まった場所は、広い十字路のほぼ中心。
邪魔だ。
スープの匂いが四方向に漂っていくのをぼんやりと感じながら、アインベッカーは読んでいた本をぱたりと閉じた。
黒いコックスーツに黒いコック帽を身につけ、三女に言う。
「デュンケル、お客さん呼び込んで」
長女直々の指示に、物凄く嬉しそうな顔でデュンケルが頷いた。自分だけに来た指令というのが無闇に誇らしいようだ。
空気を沢山吸い込んだ暴れん坊の悪魔が、一気に叫ぶ。
「らぁっしゃぁせえぇーっ!! ラーメン・釘三寸! 只今参上仕ったあぁ!!」
興奮のあまり爪とか牙とか出てきたのだが、大丈夫だろうかこの三女。
お客さんを怖がらせやしないかとハラハラしながら準備をするボックと、何も気にせず鍋をかき混ぜるアインベッカーに見守られながら、デュンケルの威嚇とも威圧とも取れる客寄せはもう一度行われたのだった。
関係無いのだが、ボックは三角巾とエプロンという家庭的なスタイル、デュンケルは腰から下がるエプロンと羽織という板前スタイルなので、アインベッカーと合わせると、物凄くまとまりの無い料理集団みたいになっていた。
お客さんをお待ちし「ラーメン・釘三寸参上おぉぉーっ!! やっはぁー!」
ついにナレーションまで潰された。
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