何故か続いてるエグリマ騒動(妖人科:国原菊)
「キヒャヒャヒャヒャーッ!」
甲高い声で笑い、学園内を縦横無尽に飛ぶモンスター・エグリマ。心に抱えた傷口を無理に開くのがこいつの役目であり、存在する意味だった。
人を無闇に傷つける事にしか存在意義はないのが、エグリマだった。
「キヒャヒャ、虐メラレッ子ォー!!」
「嫌ダオ父サン痛イヨォー!!」
「君ハ誰?私ノ子?有リ得ナァイ!!」
過去を覗き、心を引きずり出し、からかえるネタを見つけた端から口に出していくエグリマは、人間達が悲しそうに、そして怒りを込めてこちらを見ても笑うだけ。
「オタクキモォーイ!」
「らら美タンハ俺ノ嫁ハァハァ!」
「グゥ!静マレ私ノ右腕ェー!」
とにかくネタになれば何でも良いのか、別の意味で口にして欲しくない事もバンバン叫びながら廊下を飛んでいく。
剣呑な眼差しでエグリマを見るセーラー服の”国原の発祥”は、舌打ちを一つ、ゆっくりと動く。
尻尾がばちばちと白い光を帯びているのを見て、エグリマはようやく、あー違う奴だったんだ、と認識した。だが、どうでも良い。エグリマにとって、からかいの対象が何処の誰かなど、生きている中で一番知る必要のないトリビアだった。
「黙りやれ、坊……あんまりおイタが過ぎるようなら、バーちゃんが容赦しないえ」
エグリマが飛び去った後には、「二次元にしか友達がいなくてすみません」だの、「やめてもう分かってるの私の右腕にあるのはホクロだけ」だの言って落ち込んでいる生徒がちらほらいるのだった。
「キッヒャヒャヒャー!!」
エグリマが獣耳を生やしたセーラー服の前に出る。先程からかった学ランのと同じ顔に見えるので、まだからかわれ足りなかったのかと心を覗き込む。
何やら前に見た記憶と違うが、まあ良いか。不気味な口をいっぱいに開け、大声で過去を暴露してやった。
「国原ノ血筋ハ私ガ発祥!!」
獣耳がひくりと動いた。
のんびりとした笑みが消えている、国原。
だがエグリマはからかい終わった人間(人外も含むが)には興味がないらしい。
眉間に皺がよった雷獣を放って、どこか別の場所へ飛んでいってしまう。
今度は誰をからかおうかな。そんな笑みであっという間に教室の中へ飛び込み、叫ぶのだった。
「美紀子チャンノ縦笛ペロペロー!!」
よりによって、物凄く気持ち悪い記憶を。
残された雷獣は、斑模様の化け物の反応を覚えていた。此方を見て、飽き飽きしたような動作でとりあえず凝視してきたエグリマ。
恐らく、似たような人物を既に見ていたのだろう。
この学園にいる、自分によく似た人物。
「私の玄孫に、何を言うたのかね……斑の坊は」
セーラー服の国原はエグリマとは逆の方向に走り出す。
俺ノモウ一人ノ人格ガ出ルゼェー!と叫んでいるそいつを綺麗に無視して。
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