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薄い本戦争・完(妄:亡女/国原文)
「やあ、お邪魔します」
 やや乱暴に開かれた扉から顔を覗かせる。わいわいと賑やかな教室に目当ての人物たちを見つけた国原は、嬉しそうに微笑んだ。
 机の上で原稿に手をつけている双子を見据えたまま誰の目も気にせず、ただずかずかと近づいていく。
 亡女たちが国原の存在に気付いたと同時に、国原の目から光がうせた。

「……ねえ、亡女さん」

 口元だけで笑ったまま、国原は声をかけた。
「ひとちゃんで、同人誌作ったって、ね?」
 いったい何の話だろうと不思議そうに国原を見る二人。とりあえず頷き、中々人気があったよ、と付け足す双子に、国原は口角のみを吊り上げた。
 目はひたすら亡女を見据える事に集中しているので、正直不気味だった。
「あれね、やめて欲しいんだ」
「え?」
「今まで黙っててくれたのに、何で今?」
 相と心が困ったように返すのを見て、国原のこめかみに血液が集合していった。ごうごうと強く脈打つ血管を抑えられないまま、雷使いはぽつりぽつりと喋る。
「ひとちゃんの、精神状態……分かってて、ネタにしたんだよね?」
「え、描いちゃいけなかった?」
「出来るだけ萌えるようにしたんだけど」
「萌えとか、そういうので、片付けられないんだよ、本人は」
「でも、それは描かれた人全員にいえるし」
「そうそう」
 周りの人たちは会話に入ってこないで下さい、とでも言うかのように、国原の周囲を電気が爆ぜていた。ショートでも起こしたかのように不定期に火花が散る中、国原はまだ呟く。

「対人恐怖症とか、パニック障害とか、そういうののしんどさ、分かってたのに、同人屋の餌にしたんだよね?」

 本気で怒ってますよ、というのがようやく分かったのだろう。双子は気まずそうにお互いを見、国原を見つめた。
「ご、ごめんね……? じゃあ、発行した分は廃刊にするから」
「へぇ、そういう、問題だと、思ってるんだ?」
「瞳さんが好きなカップリングで描くから」
「それで、解決したと、思うんだ?」
 嫌味ったらしく追い詰めるかのような口ぶりで、机に身を乗り出した国原が尋ねていく。もう笑ってはいなかった。
 無表情で二人を見据えたまま、瞬きの回数も驚く程減った雷獣が立っている。
「二度と、ひとちゃんで、本は作らないで」
 低く淀んだ声が亡女相と心を捕まえた。
 机がかりかりと引っかかれるのを不気味に思いながら頷く双子に、更に注文は続く。
「それから、戦士三兄弟でも、本を作るのを、禁ずるね?」
「ど、どうして其処まで!?」
「そのジャンルは人気が高いし萌えるのに!!」
 これには流石の二人も反論した。
 瞳には悪いことをしたが、戦士の兄弟まで手を出してはいけない理由が分からないと。瞳の本はあれ一冊が初めてであり、クレームが来るのが早い分廃刊という判断も出来たが、戦士たちは今更である。
 こんなに発行されてから何故、と口々にブーイングを放つ中、国原はやはり無表情だった。

「私の、身内に、手を出したら、殺すね」

 ……。
 トーンが、マジである。
「最初から、嫌だとは、思ってた。でもね、此処まで迷惑になるとは、思ってなかったの、その時は。今は、物凄く、迷惑。公害レベルだから、粛清しに、きちゃったよ。てへ、ぺろ」
 てへぺろが、可愛くない。
 ホラー漫画家もビックリなてへぺろだ。
 能面のような表情で淡々と呟く国原は、でも、と口を開きかけた亡女たちに向かって言う。
「ふざけてっと、ペンチで、一本ずつ、君たちの指の、関節、へし折るよ」
 一方的な禍々しい主張だった。
 ブラコンであり、いとこ大好きイトコンでもある国原の怒りを抑える役が何処にもいないのが不味かった。
 弟は中で姉の暴走モードを見ているしか出来ず、しかも亡女は苦手だったので出るに出られない。
 紫色した猫背の人造人間ばりに暴走している国原は、戦慄している双子を前に更に続けるのだった。
「お前たちの、生爪ひんむいて、相ちゃんのは心くんの、心くんのは相ちゃんの口に、あーんって、突っ込むよ」
 分かったかい?
 ねえ?
 ねちねちと言葉を続ける国原に反論しようものなら、もっと酷い事を言われそうな気がした。
 ぎこちなく、双子が了承するのを見た国原が、やっと安心したように笑う。
 ふらふらと扉まで歩いていくと、心配をかけたお詫びに、とでも言うように優しい笑みを妄想科の皆へ向けて、柔らかい声で告げていくのだった。

「妖怪との約束は、絶対だよ?」

 がらがらがら、ぴしゃん。
 
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