両性戌と、師範(千代松)
師範と二人きりの特訓。
手合わせに負けたら罰があると言われ、必死になって師範を負かしている今。
情けない話だけれど、俺は何度も隙をつかれそうになっていた。
師範はしつこい。
とてもしつこい。
絶対に何があっても俺を罰そうとしているのが見え見えで、余計に負けたくなかった。
一挙手一投足を見る。
腕が伸びてくれば振り払い、足が出されれば蹴り飛ばす。
掴み掛かられたら投げ飛ばし、倒されそうになったらかわす。
そうやって師範を負かしていたけれど、師範は何度も起きあがって来た。
まるでバイオだ。
ゾンビの相手してるみたいだ。
今度も投げ飛ばすか、と間合いを取っていたら、師範は薄ら笑いで口を開いた。
「花牙丸はお前を愛していないぞ」
一気に頭が真っ白になった。
鼻血まみれで倒れている師範。
俺の拳についた血液。
何があったか思い出さなくとも良い程に明瞭な現場だ。
何かを言いたい。
しかし殴る蹴るに特化している今の脳味噌では言葉をうまく選べない。
師範が呻くのを冷たく見下ろして、師範が何故そう言ったのか推理した。
簡単だったけど。
動揺させて、負かしたかったのだ。
俺が戸惑っているうちに倒して罰を与えたかったのだ。
せこいなぁ、なんて思いつつ、俺は道場の戸を開けて出て行った。
「だから、何?」
一言、そう吐き捨てて。
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