千代くんを殺したい(千代松)
「何でしょうか?」
道場に呼び出したのは、家督争いの渦中にいるはとこの少年。
つい最近まで女だった、つい最近から男にもなった、年下の相手だった。
私の胸は大きい。
私の腰は細い。
私の尻は丸い。
男を魅了するために保っているプロポーションに、彼若しくは彼女は緊張した様子だった。
「あのね……私、ずっと前からね」
千代松。
彼に背を向けたまま、私は話す。
「好きだったの」
「……はい?」
「貴方の事が」
私には兄がいる。
私とは違い、戌年の精霊ではあるけれど、犬島の血を流さない養子の兄が。
知人が子ども一人を残して亡くなってしまったとかで、父様と母様が引き取った、大切な私の兄がいる。
「僕……最近まで女だったんですけど」
いぶかしむような声に、私は振り向いた。
「性別は関係ないわ……そういうの、駄目?」
隆正兄様のため。
私は口に毒を含んだ。
私は死なない。
何度もこの毒を含み、耐性が出来ているから。
訓練したから。
「……あの、いや、駄目とか、そういう前に……」
「そうね。あまり話した事もなかったわね……でもね、ずっと貴方をみていたの」
そう、ずっと。
「ねぇ、お姉さんと、大人のキス……してみない?」
顎を掴んで顔を近づける。
このくらいの年頃の子を、この手で殺した経験なら任務で二、三度あったから。
自信があった。
「ねぇ……千代松くん」
家督相続の可能性があれば。
始末すれば良い。
「さぁ」
口移しで毒薬を。
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