戌辰仙草-性転換の乱2-(千代松)
千代松が無断外泊して一週間がたつ。
股間に感じる違和感。
手術をして五日は様子見のため入院が必要と下された。
辰介の親族が千代松の家へ連絡をよこし、手術の事後報告と入院の旨を伝えたので心配する者はいないだろう、恐らく。
今頃犬島の家では唐突な性別の変更に戸惑っている頃だろうか。
病室に入ってくる医者を目で追いながら、千代松はベッドに寝転がっていた。
「きちんと排泄できてるみたいだね。精巣の拒絶反応も小さいみたいだし、問題は無いでしょう」
「今日で退院ですか」
「うん、そうなります」
完全な男になった訳ではないため今までの扱いとさほど変わらないだろうと千代松は思っているし分かっている。
本人の細胞を培養して作られたそれは辰の神格ともとれる力によってよく体に馴染んでいた。
体は丈夫、大きな病気をした事はなし、どちらかといえば健康な千代松も手術に耐えられる体力を持っていたのが幸いし、割と早く手術を終えられた。
「それじゃあ、お世話になりました」
「はい、何かあったら相談してください」
家に帰るなり姉からは平手打ちを受けた。
千代松の姉は、千代松の体が女であっても構わないという考えを持っている。
大切な妹であり弟であるからこそ、其処まで思いつめているなら何故相談の一つもなかったのかという寂しさと憤りを抑えられなかったのだろう。
兄からは頭を撫でられた。
父は千代松を抱き締めた。
すまない、と一言呟いたのみで、それからはずっと頭や背を撫でているばかりだった。
千代松は自分が恵まれた子であると思っている。
優しい父と兄と姉がいる自分を恵まれていると感じている。
少しでも恩返しになるなら、それで構わなかった。
「半分は男となった以上、覚悟はしておきなさい」
伯父は甥っ子が本当に半分甥っ子になって戻ってきたのをどう思っているのか分からないが、短くそう言うのみである。
千代松は自身の性別を納得していた。
中間の心を持った自分にはお似合いだと思っていた。
手術を受けて正解だったと、そう思っている。
休んでいた分の修行を消化するのは億劫だったが。
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