戌辰仙草-性転換の乱-(千代松)
「良いけど百万かかるよ」
クラスメイトの親戚を頼ってみれば、そんな事を言われた。
自身の性別に悩む犬島千代松は辰年の精霊、辰介の親戚に会っていた。
医療のプロが集う辰介の一族の中でも性転換手術に特化した親戚だ。
男性のそれを生やすのにもうん百万かかるがそれを出血サービスで半額以下にしてくれて、百万だ。
なかなかお高いが、犬島はその分を働いて出すつもりでいた。
ちなみに女のそれを取り除く手術を足すとどれだけ勉強しても四百万は越すといわれ、犬島の体にも負担が掛かるからやめたほうが良いとも告げられた。
「両性具有ですか……」
「後天的なね」
犬島の実力はプロとは言いがたいが、仕事を請け負えばそれなりに入ってくる。
それを五十回か六十回繰り返せばきっと払えるだけの金は出来るだろう。
兄は体の弱さを悔いていた。
姉は自身が女である事を悔いていた。
父は千代松を男として育てる事を謝っていた。
きっと自分が男のそれを生やしたら三人は喜んでくれるだろう。
頭の良くない千代松なりの気遣いだった。
きっと、そうしたら皆も、少しだけ認めてくれるんじゃないかと。
「契約書がありますんで、此処に署名捺印、お願いしますね」
手術に及ぶまでに血液検査や身体検査が数多くある。
手術中に死ぬ可能性もゼロではないと聞く。
犬千代は五十回払いという約束で手術してもらう事になっていた。
「しばらく入院もして貰うからね」
「はい」
父にも伯父にも相談せず一人で決めて一人で契約した初めての大きな買い物だ。
未成年の手術なのだから、本当の所は保護者の同意がなければ手が付けられないだろう。
それをすっぱり切り捨てて本人と契約してしまう辺り、辰介の親戚は患者第一主義過ぎるようだった。
「じゃあ、血を取ります……腕出して」
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