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征四郎の呟き(虎富士征四郎)

 十七年前の雨の夜。
 揺り籠の中で雨を受けていた赤ん坊が私だった。
 寅の一族の屋敷を目の前に、泣く力さえなく濡れていた。
 熱を出し、肺炎になる寸前だったのだと、今になって聞く。
 捨て子なんぞ拾うものではないといったら、兄たちは笑いながら首を横に振った。
「弱い存在を守って何が悪いんだ」
「そうとも! 征四郎は変わってるな!」
 変わっているのは兄たちであり、父である。
 しかし、虎というのは強い。
 強者ゆえの余裕から来る施しの心なのだろうか。
 まぁ、考えたところで答えは出ないのだから仕方ないが。
 長男は牙一郎(がいちろう)、次男は爪次郎(そうじろう)、三男は虎三郎(こさぶろう)、そして四番目の子どもとして受け入れられた私は征四郎(せいしろう)。
 七人兄弟で、他にもこの家の子ではない存在がいる変な家に引き取られた私は、とりあえず自分は捨て子なのだという自覚だけは捨てないでいた。
 捨てない、というべきなんだろうか。
 捨てられない、というべきなんだろうか。
 思考停止しているのだ。
 いらないのだろう、捨てられた。
 その意識からどうにも進むことが出来ないのだ。
 これは事実であり、確かな過去である。
 考えても仕方のないことだ。
 ぐるぐると同じことばかり浮かんでくるのが何とも気持ち悪い。
 答えの出ない問答を続けているのにも、正直飽きてきた。
 だから。

 だから、私は思考を放棄した。

「やはり、捨て子は拾うべきではない」
「ははは! また言ってら!」
 
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