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「#幼馴染」のBL小説を読む
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犬屋敷まったりデイズ(千代松)

「千代松、見ーっけェ」
 くすくすと笑い声を含んだ呼びかけに、畳の上で寝転がっていた犬島千代松は起き上がった。
 視線を上に上げれば、いとこであり、大切な犬島花牙丸の姿がある。
「あっついねー」
 挨拶代わりにそう話しかければ
「夏だもん、当たり前だろォ? そんな事も分からないのォ? やっぱり千代松は馬鹿だなァ」
 笑いながらきつい言葉が返ってくる。
 千代松は苦笑いを浮かべ、腰を上げた。
「何処に行くのォ?」
「台所。アイス取ってくる」
「あ、僕ハーゲンダッツが良ィ」
「うん、了解」

 アイスを口に含みながら、二人、隣同士。
 夏特有の蒸しあがるような空気と気温に汗が滲むが、どちらも隣をどこうとは思わなかった。
「あっついね、花牙丸」
「だからァ、夏だもォん」
「そうでした」
 アイスバーをがりがりと齧る千代松が、花牙丸の口元へそれを持っていく。
「ちょっと食べる?」
「えぇ〜……お前の唾液がついたのなんてェ、いらないよォ」
「随分だなぁ……」
「文句あるゥ?」
 辛辣に聞こえる花牙丸の言葉と、おされ気味の千代松。
 いつもの風景だ。
 何でもない光景だ。
 本人たち……特に千代松にとってみたら、割と楽しい一場面だ。
「どうしてもって言うならァ、食べてあげるけどォ?」
「うん、じゃあ食べてみて、結構美味しいよ!」
 軽口を叩くには傍にいないといけない。
 憎まれ口を叩くのにも傍にいないといけない。
 千代松はこうして二人きりになるのが好きだった。
 しゃく、とアイスを齧る音がして、花牙丸の顔が離れていく。
「どう?」
 尋ねてみると
「まあまあって感じィ」
 それなりにお褒めの言葉を頂いた。
 暑い夏。
 風鈴の音がお情け程度に響く部屋で、二人はゆっくり流れる空気と時間に目を細めていた。
 蝉が鳴けば更に暑苦しく感じるのだろう。
 そうしたら、また、二人並んでアイスでも食べよう。
「千代松ゥ」
「ん?」
「はい、あーん」
「くれるの? あーん」
「あーげないィ。簡単に騙されるなよォ、馬ァ鹿」
「……ひっでぇー」
 そうしたら、また、こんなやり取りでもしよう。
 夏は暑い。
 そんなもんだよ。
 
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