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屋根上ごろごろ(犬島千代松)

 旧校舎の屋根に寝転がり、休み時間を満喫している犬がいた。正しくは犬の精霊なのだが別に犬くくりでも良いような気がするので訂正はしない。
 体は女、頭脳は男、その名も犬島千代松、略して犬千代、真実は割りといくつか持っておくタイプである。
 何の話だ。
 日差しを浴びながらまどろむ犬千代は、森学園の十二科に所属する学生だ。
 黒いコウモリだの白いコウモリだの飛んでいるが、此方に来たらぶっ飛ばせば良いだけの話なので特に気にせず寝ていた。
 時々何処かの窓から、おじちゃぁーん、こーもり! こーもり!、と小さな子どもの声が聞こえるが、旧校舎にでも住んでいるのだろうか。
「黒……あー、カミツキコウモリ」
 わざわざ起き上がるのも億劫らしく、犬千代は片足を上げただけで黒いコウモリを蹴飛ばす事にしたようだ。
「白……ミミナガコウモリか……襲って来んなら、無視」
 あまりにも遭遇率が高いのか種類名まで覚えてしまったようで、特に何もして来ない方だと認識すると背を向けるように寝返りを打つ。
 魔女が襲ってきているというのに呑気なものだ。
 いや、犬島は犬島で仕事をしているのだが。
 犬島の家は隠密の家系。やる気のない風であっても学園の様子を探る事は怠っていない。多分。
 のどかっぽい時間を過ごす犬千代。
 しかし彼(若しくは体的な意味で彼女)は知らない。

 これから誰かによってのどかでは無くなるという事を。
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