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怪我は治るから大丈夫(御境)

 銀の弾丸は狼男を殺すとどこかの誰かの創作で読んだ事がある。
 惜しい事に内容も作者もタイトルもうろ覚えでしかない。
 昔々の経験ではなく、つい先週あたり、学園の図書館での記憶なのだが、あまりに小難しい小説だった為か、内容が右から左へすっ飛んでいき、覚えていないのだ。
 ただ、銀の弾で狼男を殺す云々は、何とはなしに頭に残っていた。

 その銀の弾丸を、私は今、身体中に目一杯浴びている。

 衝撃で後ろへ吹っ飛んだ私は、黒い巨大な腕を廊下に突き立てて威力を殺す。
 自分のこめかみの血管が、酷く脈打っているのが分かる。
 腹立たしいのか。腹立たしいのだ。
 白い衣服を身に纏った召喚従属が、二丁の拳銃を私に向けている。
 こいつは姫を侮辱した。
 何と言ったかは覚えていない。むかっ腹を立てた私は即座に喧嘩を買ったから。
 覚える必要等なかったから。
 私の事なら好きなだけ罵れ。ただし姫は許さん。ぶっ飛ばす。
 銀色がシャワーのように私に降り注ぐ。
 私は床を蹴り、壁を踏み、銀色を避けながら天井を進んだ。蛍光灯が邪魔だ。
 白い……そう、見た目だけなら天使のようなそいつの真上に到着した瞬間、私は重力に従った。
 真上に向かって放たれる銃弾にぶち当たりながら、右で拳を作り、落下していく。
 身体は頑丈なので、ただの銃弾程度では穴も空かないのだった。



 そして、叱られた訳で。
 教員方に叱られるのは予想がついていたので、平気な顔もできたのだが、まさか姫からお叱りを受けるとは思わなんだ。
 頑丈だからといって無傷な訳ではない私の身体に包帯を巻いて下さりながら、喧嘩等する必要はなかったと、短く仰る姫の表情は、少々ご機嫌ななめに見えた。
 私とて、あいつなんぞより貴女様と共にいたかったですとも。
 ふと見ると、包帯姿の私の前に仏頂面で立つ、顔に大きなガーゼを当てたあいつ。
 ふふん、見ろ、拳銃天使。姫の方が手当てがお上手だ。恐れ入ったか。

 誇らしい気持ちになったので、虫の足のような左腕で、姫を抱き寄せ、見せつけた。
 
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