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会話の方向音痴(陣内陣内)

「せんっせぃーい!」
 今日もその声から一日が始まる。

「早瀬、課題は済ませたか?」
「はい、ちゃんとやって来ました!」
 社交的な生徒の一人である早瀬瞬に尋ねれば、きちんと返される望み通りの言葉。
 こんな生徒ばかりなら良いものを、と暴れる次男坊を頭に思い浮かべた陣内が溜め息を一つつくと、心配になったのか早瀬は声をかけてくれた。
「大丈夫ですか、先生? 体の調子、悪いんですか?」
「いや、大丈夫だ。優しいんだな、早瀬は」
 有り難う。
 そう笑うと、早瀬の顔が何故だか赤くなる。
 陣内はそれに気付かない。
 いつもの事である。
「や、優しい男は好きですか?」
「うん? そうだな、優しい者は好きだぞ」
「ほ、本当に!?」
 ぱあっと明るくなった早瀬瞬の表情を見て、陣内陣内は小さく笑って頷く。
 他者に優しく出来る心の度量を持った人間は好きだな、と続ける陣内だが、早瀬は好きの一言しか聞き取っていなかった。
「俺、先生のことが好きです!」
「そうか、有り難う」
 方や何度目か分からない恋の告白。
 方や好意的な挨拶。
 認識に差がある二人は、しかし会話が通じてしまったが故にその誤差に気付かないでいた。
「先生は、俺のこと好きですか!?」
「ああ、早瀬みたいな真面目な生徒には好意を持てる」
 先生は真面目な俺が好き、と認識スイッチが入った早瀬と、元々生徒のことが大好きなので言い直しの必要がない陣内は、またもズレが生じている事に気付かない。
 こうして日々すれ違っていく二人なのだ。
 すれ違っている事にさえ気付いていないが。
「その、つ、付き合ってくれる気に、なりましたか……?」
「良いけど、何処へ付き合うんだ? 授業が終わってから聞くよ」
 お付き合いの意味すら違う異次元空間。
 今日も平和にズレ続ける生徒と教師は、何の進展もなく明日もズレる。
 誰か突っ込んでくれ。
 誰か訂正してくれ。
「先生、大好きですっ!」
「有り難う。それじゃぁ席についてくれ」
 今日も元気に、一方通行。
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