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人見知りレッドが配る(国原瞳/国原文)

「ふぅちゃんと、がっちゃんと、あと、クローバーちゃんと、お兄」
 二月十六日。
 ぼそぼそと呟く赤いロングヘアーの女は今更になってチョコレートを用意していた。国原瞳。激しい人見知りと根暗気質のせいで未だに教室になじめていない雷獣の子孫である。
 バレンタイン商戦で人ごみが出来る時期は買い物にすら行けない程怯える瞳なので、いつもイベントが終わってからの、まばらになった人の中を行く事にしているのだった。在庫処分で安くなったチョコレートから好みの物を選び、買ってくる。
 ある意味買い物上手だ。
 可愛いラッピングの既製品を大量に購入した瞳は、それを教室の机全てに置いて回った。何処に誰がいるのかも今一分からないし、顔と名前が一致していない現状ではあるが、チョコレートという甘くて美味しい物を貰う習慣と化した日本だ、仲良くなるつもりは無いにしても配るくらい良いだろう。
 唯一把握している文と十六夜ジャックの席にだけはチョコを置かずに、教卓にもチョコレートを置いて教室を出て行く。予鈴が鳴れば生徒たちが大勢入ってきてしまうので、それまでに終わらせて逃げたかった。

 廊下に飛び出し、走る。

 思い切り誰かとぶつかり、その誰かがすっ転んでしまった。
「大丈夫!?」
 思わず声をかければ、いつもののんびりした声が、いえすあいはぶ、と意味不明な返事をしたので大丈夫だろうと判断する。
「ごめんね、ふぅちゃん……あ。バレンタインのチョコ、買ったから、渡すね」
「有り難うひとちゃん。私も、同じ日に交換したかったからさ、作って持ってきたんだよー。これ、どうぞ」
「有り難う、ふぅちゃん」
 のどかに会話をしながらチョコレート交換。
 こうして人並みの交流が出来る唯一にして最大の相手である従兄弟と笑い合うのが国原瞳の幸せだった。
 がっちゃんと、クローバーちゃんの分もね、と残り二つを手渡して、瞳は文と教室に戻る。従兄弟さえいれば教室に留まれるくらいの勇気が出るのだから、身内の有り難さというのは半端じゃないのかも知れない。
 席に着く。予鈴が鳴る。
 文が自分の席から手を振ってくれるので、瞳は安心して手を振り返し、授業の準備が出来るのである。
 チョコレートを配った事など記憶からすっ飛んでいるので、五分後、誰がチョコレートを置いたのかと不思議がる生徒たちに思い切り怯えて緊張するはめになるのだが、それは置いておこう。
 
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