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「#幼馴染」のBL小説を読む
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五木は鈍い話は長い(五木巽/谷章/国原文)

 その日は三人だけでお茶会をしていた。
 国原文、谷章、五木巽の三人が、五木の部屋で茶と茶菓子を広げながら、夜に開かれる茶会の話で花を咲かせていた。
「それで、沢山人が来るんだよ。蓬莱樹君もきたし、安達さんもいたし、壱鬼君や卜部君もきたよ」
「お茶会って楽しそうだねー」
「私も少しなら参加した事があるよ。嵐ヶ丘君と話してね。とても気遣いの出来る心優しい人だったんだ」
 二人から茶会の感想や思い出を聞かされ、谷はわくわくといった様子で両の頬を押さえた。大きな瞳が潤んでいる。
「素敵だな〜っ。僕も行きたいなー。お友達、できる?」
「出来るよ。結構沢山。ね? タツさん」
「そうだね、気が合う合わないは個人によるけれど、友達関係を築くには良い環境かも知れないね」
 微笑みながら五木が頷く。
 それだけで谷の顔はもっと輝くのだった。
 そこに、国原が茶をすすりながら言葉を挟んだ。

「そういえばさ、クリスマスプレゼントの話、学から蓬莱樹君に通しておいたんだけど……今度のお茶会にはタツさんや明星さんが行くんだよね?」

 それに、五木は少々気まずそうな顔になる。
 俯き、無言で茶を啜るのに、谷も国原も不思議そうな顔をした。
「タっくん、どうしたの?」
「行く気、無いのかい?」
 年下二人から尋ねられ、五木は国原へ向き直る。申し訳なさそうに、口を開いた。
「すまないけれど、プレゼントは文さんが渡してあげてくれないか」
「なんでさ」
「実は、嵐ヶ丘君と改めて顔を合わせるのが、少々恐ろしくてね」
 そう言う彼は苦笑いだった。眼帯の少年に会うのが怖いという年上の友人に、二人は首を傾げるばかり。今一理解が出来ない。
 茶菓子にと袋から出したクッキーを頬張り、国原は俯く五木に声をかけた。
「嫌いなの?」
「とんでも無い」
「じゃあ、どうして? 嵐ヶ丘君って優しいよー?」
 谷もクッキーをかじりつつ、困ったような五木に尋ねた。
 実は、と視線だけを二人に向けた彼が呟く。
「彼と話している時はとても楽しくて、安心も出来るんだ。少しだが、私に慣れてきてくれているようで……私も安らぎたくて話しかけているようなものでね」
「ふむ」
「しかし、その安らぎというのが……二人と一緒にいる時とは、別物の感覚ではないのかと、そう思えてきてね」
 何時の間にやら、谷と国原の人生相談ショーと化していた。
 相談者であるT・Iさんは、特にプライバシー保護もせずに二人の前で悩んでいる。
 何とも微妙な相談ショーなので恐らく視聴率は取れないだろう。
「どういう感覚?」
 谷が聞く。
「それが、よく分からなくてね。しかしこの感覚は、私と彼の友人という関係に支障をきたす物では無いかと心配なんだ」
 五木が答えたのに、国原はクッキーをぱくつきながら呟いた。

「例えば、会うたびに喧嘩する女の子と男の子がいたとする」

 国原の内側でオイィィ!! と突っ込みが入るが、国原本人は綺麗に無視した。
「顔をあわせるたびに喧嘩を売ったり売られたり。前はあんなに腹が立って、嫌われてるもんだと思っていたのに、いつの間にか彼女が何処にいるのか、何をしているのか、妙に気になって仕方ない」
「それは……弟君の話かい?」
 五木に問われ、国原は笑う。
「例えばの話だよ」
 何を気にするでも無く茶と茶菓子を味わいながら、谷や五木を見て微笑んだ。
「自分でもよく分からなかったけど、彼女の顔をいくらでも見ていられるのに気付いて、何となく、あー、もしかしてって、そう思い始めたんだ。……中にいる、姉の方が」
 谷が不思議そうな顔をして話を聞いているのに、国原は面白そうにしていた。きょとん、とする氷使いの頬をぷにぷに突付き、くすくす笑っている。
 擽ったそうに身をよじって国原の頬を突付き返した谷に、国原も突付き返し返す。呑気な年下二人に、五木は苦く笑った。
「そんな微妙な感じなんだよね、最初の方は」
「それはつまり……私も、それと同じような感覚だと、そういう事かい?」
「恐らくは。同性だから余計に分かり難いだけで、本質は同じだと思うよ」
 慌てる事も無く言ってのけた国原は、五木の手に自分の手を乗せた。
 国原にとっては、相手が男だろうが女だろうが人でなかろうが手足が異常に多かろうが、言葉が通じるならば全て同列なのだ。
 五木はそう思った。
「オタクがフィギュアを大切にしすぎて触れなくなっちゃった、みたいな感覚かな」
「嫌な例えだね……」
「それか、気にかけすぎて言動一つで傷つけまいか異様に心配になる症候群、とか?」
「……そっちの方が良いなぁ」
 冷たくなった茶を飲もうとカップを持ち上げる五木を止め、国原は新しく入れなおしに席を立った。
 谷がクッキーをつまんで五木の口元へ持っていく。
 口を開けてそれを受け入れれば、直後に暖かいお茶が入れなおされて机に置かれた。

「タツさんが行くんだ。じゃないと何も分からない」

 国原の静かな一言に、五木は小さく笑う。
 確りと頷いて、部屋にかけてある新しい服へと目を向けた。
 薄紫色のトレンチコートを。

「そうだね」
 
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