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突発過去話(国原's/砂波銀)

 石が投げられる。土をかけられる。唾を吐かれて足蹴にされる。
 双子の静かなほうはただ蹲り、自分を守るしか出来なかった。
 化け物、オキクサマ、町が火事になったらお前のせいだ、出て行け、死んでしまえと罵声を浴びた。
 大人は不気味がって双子には一切関わりたがらなかったので、子供たちが一度暴走を始めてしまうと、それを止めてくれる者などいなかった。
「痛い、痛いよ……やめて……!」
 石が当たるたびに泣きそうになる。雷で追い払おうとも思ったが、焼け焦げた上級生を思い出し、怖気が走った。
 内側で双子の片割れが自分を表に出せと叫んでいる。怒りに任せた声だったので、出してしまえば周りの子供たちが炭になってしまうだろうと思った。
 土が顔にかかる。
 このまま我慢し続けて、周りの子たちの気が済むまで蹲っていようと思ったその時に、空気が湿った事を肌で感じる。

「ええい、やめぬか貴様らぁ!」

 耳の部分が魚のヒレになった子供が、こちらに向かって突っ走ってくるのを、幼い双子は確かに見たのだった。
「出た! 河童だ!」
「半漁人だ! 食われるぞ!」
 口々に好き勝手言い、子供たちが逃げていく。
「半分事実だけに否定できんわ馬鹿者! つうか食わんわ馬鹿たれが!」
 子供たちを追い払った魚のような人物は、蹲る幼い国原を見る。顔や腕に擦り傷を沢山作った小柄な相手に手を差し出し、そいつは言った。
「そうか、お主が噂の、雷の子か」
「……誰?」
 警戒心をあらわにする文に、魚のような子供は苦く笑う。
「手前が名は、湖河 砂波銀という。見ての通り、四分の一は妖怪だ」
 大きな池がある神社の裏に住んでいるというその男の子は、古臭い喋り方をしていた。まるで時代劇から抜け出してきたかのような話し方に、役者の子かと疑ったが、どうも違うらしい。
 同じように迫害を受けて生きているという少年に、文は少しだけ興味を持った。
「町の外れに住む故に、会う機会に恵まれなんだが、知り合えて何よりだ。化け物同士よしなに頼むぞ」
「私たちは、化け物じゃないもん」
「私……たち?」
「私の中に、弟がいるの」
「……ふーむ? よく分からん」
「……馬鹿なんだ」
「何だと貴様」
 これが初対面だった。


 友達が出来たと父に言った。四分の一は妖怪だと言った。
 父は手を叩いて喜び、今度おうちに連れてらっしゃいと言ってくれた。
 湖河家と国原家の交流はこうして始まり、忌み嫌われている二つの家族が同盟を結んだも同じ事で、町の人間はそれを快く思わなかったが、そんな事はもはやどうでも良かった。
 文と学にとっては砂波銀が、砂波銀にとっては文と学が、初めての友達であり、小さな世界の約半分を構成していたのだから。
「本当に此処に落としたの?」
「う、うむ。此処だと思うのだがなぁ」
 ある時は、忍者の家系だと主張するのを信じなかった文のために、砂波銀が父や兄に黙って持ち出した手裏剣を紛失し、一緒に探した。
「あ、ついてない」
「今まで手前を男だと思っておったのか貴様」
 またある時は砂波銀を家に泊める事になり、風呂場で性別を知る事にもなった。
「砂波銀、食らいやがれぇ!」
「いだだだだっ!? ほ、放電はやめい! こら、学!」
 そしてある時は弟の方が決闘ごっこをふっかけ、何度も感電させた。

 それくらい遠慮がなく距離も近い初めての友達は、突然苗字が変わった。

「この間、町に引っ越してきた財閥のご子息……いや、ご令嬢に気に入られてな」
 砂波銀が中学一年生、文と学が小学六年生の、夏だった。
「手前の家は裕福ではない。手前を引き取るための礼金を払ってくれると言うし、出稼ぎのつもりで養い子になってみようと思うておる」
「それって、人を売り買いしてるのと、何が違うんだい」
「厳しいな」
 苦く笑う一つ上の友人は、頬をかいて俯く。去りたくないと言っているような気がしたが、文には何も出来ない。
 家族にはいつでも会って良いと言われているし、住む場所も遠く離れる訳ではないからと笑って言う砂波銀に、学が内側から舌打ちをする。
「湖河」
「ん?」
「湖河、湖河、こが、コガ、コガ、コガ、こが」
「……文?」
「湖河」
「どうした」
 面食らう砂波銀。
 睨むように見つめ、吐き捨てるように文は言う。
「お前が湖河を名乗るのは、今日が最後だから」
「……ああ、そうか」
 涙は出なかったが、これが湖河砂波銀との別れで、砂波銀・ハングマンとの出会いだった。
 あっさりとしていたが、三人の間では驚くほど濃密な記憶として残っていた。


「砂波銀、コーラと池の水、どっち飲む?」
「何だ後半部分。喧嘩売っとるのか貴様」
 それが現在も平気でディスりあう、ハングマンの次子と国原双子の昔話である。
 
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