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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
雷使いざまあ(十六夜ジャック)
「いっざよーい!!」
「あーそーべー!」
 授業終了と共に突進してくる同じクラスのサラダと、妖人科の釘デュンケル。タックルを避けようと逃げたが火炎放射され、立ち止まった隙に妖人の怪力で突っ込まれた十六夜は綺麗に吹っ飛び、転がっていく。
 校庭フルボッコ事件から数週間、もしく数ヶ月たっているが、十六夜ジャックは暴れん坊二人に良い遊び相手として認識されていた。
「なあなあ、十六夜! 俺と遊ぼうぜ!」
「サラダも遊ぶ!」
「今日もフルボッコしてやんよぉ!」
「やんよー」
 倒れ伏した十六夜に、元気に抱きつくデュンケルとサラダ。
「離……せ、コラァ! 俺は暇じゃねぇんだよ! くら! 離せ!」
 暴れて振り放そうとする十六夜だが、暴れん坊一人に対して暴れん坊二人がくっ付いているので、効果はプラスマイナスゼロというか、マイナス一というか、少し残念な結果に終わっていた。
「嫌だ! 遊びな、十六夜! 今日も激しく愛してやるぜぇ! ひゃっひゃぁ!」
「ひゃっひゃー」
 下品な言い方のデュンケルに傍で見ていた砂波銀が顔をしかめる。やめろサラダが真似をする。わなわな震えるお姉ちゃんをよそに、サラダはきょとんとした顔でデュンケルの言葉を鸚鵡返ししていた。
「暇だぁ暇暇ぁ!!」
「ひまだーひまひまー」

「お、十六夜、浮気かー?」

 ボッコにされている十六夜にかけられたのは、先程国原から『聡さんとラーメン食べに行きたいな』というメールを受け取って、優しい笑みを浮かべていた雨宮聡の声。
「何!? 陣内先生と仲良くしてて冠橋さんとリア充になった癖に浮気だと!? てめえ十六夜、何考えてるんだ!」
 雨宮の冗談に悪ノリしたのか、それとも本気にしたのか、早瀬瞬が声を大にして十六夜を責める。ざわざわと教室が騒がしくなり、十六夜の不貞行為というかボッコられぶりというかに、えーやだぁー、だの、うそー? だのと声が上がった。
 信じないでやって下さい、そこの人。
「ぁ……あの……う、浮気なんか、じゃ、ないと……思います……」
 嵐ヶ丘みちるは、自身が対人恐怖症であるにも関わらず懸命に弁護してくれようとしている。優しい子である。
 小さな声だが、傍にいる五木には確りと伝わった。
「そうだね。私も、嵐ヶ丘君と同じ意見だよ」
「い、五木さんも、ですか?」
「ああ。嵐ヶ丘君は優しいね……怖い相手は苦手だろうに十六夜ジャックを弁護するんだから。とても心の穏やかな人ではないと出来ない事だ」
「いえ、そんな事……」
 五木が優しい目で嵐ヶ丘を見る。謙虚な少年に好感を抱き、そして、彼が話しやすいようにと話題を提供していた。

「十六夜ー、浮気はいけないぞ? 未来のお兄さんである俺を見習って、ただ一人を愛してみろ!」
「そうだぞ十六夜! 陣内先生にアプローチしたら殺すからなー?」

 怪力とサラマンダーにしがみつかれて、もがくしか出来ない十六夜に、何とも手ひどいエールが送られている。
 というか応援じゃなくて惚気と殺害予告なので、十六夜にとっては敵が増えたような気分でしかなかった。
「おい、聡、いい加減にやめてやれって」
 笹川彗の苦言に対し、大丈夫だって、と笑って返す雨宮は続けて言う。
「これを冠橋さんが見たらどう思うかなー?」
 それに返った言葉は。

「……じ……ジャックさん……?」

 教室の真ん中で集団に眺められながら二人の少女のハグを受け止めている恋人、を、目撃した、小柄な少女のものだった。
「……み、ゆ、み」
「あ、あの……これって……」
「い、いや、別にあのさ、そういう、浮気とかそんなんじゃ全然! あの俺は!」
「う、浮……気……?」
 きょとーんとした顔で十六夜と冠橋を交互に見るデュンケルとサラダの二人は、どうやら十六夜が冠橋を悲しませたらしいと判断したようで、ゆっくりと十六夜から降りる。
 そして、静かに言うのだった。

「謝れよ、十六夜」

「ごめんねって」

「そもそも誰のせいだと思ってやがんだてめぇらぁぁあーっ!!」
 ぷっちんした十六夜の怒声が、教室に轟いた。
 リア充(の片割れ)ざまあ、である。
 
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