シリアスにならない(国原文/国原菊)
成長するにつれ、私とジャック……幼い頃は私の片割れという事で文学の学(がく)と呼ばれていた、その二人は、町の人間から「オキクサマ」と呼ばれるようになっていった。
何でも、町の伝承にある「お菊雷神」とかいう妖怪だか精霊だか、つまりバケモノの似顔絵に似ているとかいう理由だった気がする。
下らない、と二人揃って町の人間を無視してきたが、町の人たちは「オキクサマ」と呼ぶのをやめず、村八分もやめなかった。オキクサマは気紛れで、人間には媚びない獣で、時折思い出したかのように雷を呼んで町を火事にする。
それに似ている雷使いなんて、町にとっては不吉以外の何物でも無いだろう。
能力を持たない人は能力者を怖がるのだから、許そうと思っていたけれど、流石に伝承まで持ち出されて恐ろしい恐ろしい言われるのには破壊衝動が目覚めかけた。
何故、そんな事を思い出しているかというと。
「国原ガ迫害サレルノハ私ノセイ!」
「ああ、煩いやねぇ。坊、黙らんとその口更に引き裂くえ?」
「子孫ガ憎マレルノハ私ガ発祥ダカラ!」
「はい、引き裂きまぁす」
ビリビリビリ。
さっきまで煩く纏わりついていた斑模様の口を爪で簡単に切り裂いた目の前の人物が、そのオキクサマだと知ったからだ。
ぼろぼろと崩れて、砂のように消えていく斑模様を眺めていたら、その人がしゃがみこんできた。知らないお兄さんが知り合いかと尋ねてくる。首を横に振ると、それを見てオキクサマが笑った。
「自分で言いたかったんだけどねぇ。あの坊が勝手に読むもんだから、言えなんだ」
(じゃああいつが口開く前に殺しちまえば良かったじゃねえか)
斑模様の化け物が言うには、目の前にいる私にそっくりな人が国原が雷使いになった発祥で、私たち子孫が迫害される事になったのを悔やんでいて、自分も人間に殺されそうになっていたから学園に逃げ込むしかなかった、お菊雷神なんだという。
自分で言うタイミングなんていくらでもあったろうに。
きっと、あの斑模様が情状酌量なんてせずに嫌な事実だけ言うのを利用したんだろう。言い訳せずに都合の悪い事ばかり私たちに教えて、さて、どうします?みたいな心情なんだろう。
「勝手なもんですね」
こっちは爪まで伸びたんだぞ。
なのに。
「それを教えて、何のつもりですか。過去は変わりませんよ。今まで知らなかった人がひょっこり先祖ですよとかいって現れても他人同然ですよ。何がしたいんですか」
父さんは泣いたんだぞ。
じいちゃんとばあちゃんまで自分を責めたんだぞ。
「今更何の用ですか」
「謝るつもりはないえ」
「おいこら」
(謝れよ畜生)
「(謝られたって何もならないけど)」
(何もならなくても謝れよババアって思うだろ)
あっさりと告げるお菊雷神。
めっさ毒づく十六夜。
二人に挟まれて、そういう気質でもないのに突っ込んだり纏めたりと気持ち的に忙しくなる私を、お菊雷神は優しく眺めていた。
「私は、人間と結ばれて、子孫を残した事に後悔は無いよぅ。ただねぇ、迫害された事は本に申し訳なく思うておるよ。迫害した奴らが不幸になるよう呪いでもかけるべきだったねぇ」
まさかのそっち。
本当に何がしたいんだこの人。
訝しげに見据えていると、獣耳をぴょこぴょこ動かして、お菊雷神が続ける。
「あのねえ、もうそろそろだと思ったんだよぅ」
「何がですか」
「先祖返り。爪が伸びたり、昔の言葉遣いがしたくなったり、目がいっちゃったりしとらんかえ?」
あっさり言ったな、この人。
二つ該当しちゃったじゃないか。え、何、どうすんのこれ。
ていうかどんな先祖に返ったら目がいっちゃうんだよ。
「玄孫辺りで返るやも知らないねえって、夫と話しておってねぇ」
げんそん?ああ、やしゃごですね。
って。
返るやも知らないねえ、じゃねえよ。
「尋常じゃない怒りで返る事があってねえ。でも、血は薄まっておるから、妖怪というより、人間の領域だし、気にする事ではないえ。それだけを伝えに来たんだよぅ。まあ、安心おし」
「出来るか」
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