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「#幼馴染」のBL小説を読む
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素敵に不適な射的で無敵(国原文)

「また外れた」
 声のトーンを若干落とし、国原が呟く。
 狙うは兎のぬいぐるみ。
 グレーという何とも渋い色合いなのが女子受けを狙っていないようで気に入ったのか、先程からそれ一点に集中して銃を構えているのだった。
(へったくそ!射的ってのはな、んなへっぴり腰でやるもんじゃねぇんだよ!)
 内側から檄が飛ぶ。
(おら、持手は肩に付けろ)
「……こう?」
(そーそー!んで、体は必要以上に傾けるな)
「どういう事だよ」
 小さな声でぶつぶつ物を言う客に、店主は気味悪そうな顔をする。国原は気づきつつも内側からの声に意識を集めた。
(見た限り、玉は左上に飛んでくみてぇだからさ、ちょい右側狙って、少しだけ腰落としてみな)
「……腰を、落とす」
 異様な光景である。
 射的の銃を構えた一人の女が、足を肩幅まで開いたかと思うと蟹股で商品を狙いだしたのだから。周りの客達もあまりに真剣な国原に何事かと視線を向けていた。
(あー、もうちょい右……そこだな。うし、撃ってみ!)
 コルクの玉が飛んでいく軽い音がした。
 もす、と柔らかい何かに当たった音がして、灰色の商品が落ちていく。
 傾斜になっている射的台に沿って滑り落ちてくるのは、兎のぬいぐるみ。
「おお……おめでとうさん!」
「……有り難う御座います」
 真剣にやった甲斐があったね、と茶化しながら商品をくれる店主に、国原も少し笑ってぬいぐるみを受け取った。
 そして、残った最後の玉を詰める。
(なーに狙ってんだよ?)
 十六夜が声をかけるのに、国原が指差しで示したのは、何の事はない、クッションだった。縁日に出るような、一風変わった柄の。
 左から藍色、白、赤と横並びになっているクッション。フランス辺りの国旗だろうか。横方向の長方形になっていた。
(あんなもん取って何しようってんだ?)
 呆れた様な声がする。
 使い道などある筈もない。こういう『変な商品』というのは、祭り気分で浮かれた客が、その場のテンションで買い求めて後々途方にくれるためにあるのだ。
 まさか国原が浮かれているとは思っていない十六夜だったが、何を考えているのか今一分からない相方に困った様子だ。
「兎さんにあげるんだ」
 ぼそりと呟く国原。
 意味が分からず何も返せない十六夜を放っておいて、商品ゲットのポーズが再び繰り出された。

 もすんっ。



「お帰り、文さん……それ、取ったのかい?」
 五木が指差した先には、灰色の兎とフランスクッション。
 国原はピ○チュウのお面を顔にかぶり、頷いた。
「ぴーかぁ」
 いや、鳴き真似はしなくて良いのだが。
「そうか、取れて良かったじゃないか。……そうだ、嵐ヶ丘君、はぐれないように手でも繋ごうか」
 国原が不思議なものを取ってくるのはいつもの事なのだろうか。大して動じない五木は微笑み、隣を歩いていた嵐ヶ丘君の手を取る。
 ふわあ!と驚いたような声がして、迷惑だったかい?すまない。と五木の声。
 そんな二人に小さく手を振り、国原は出店を回るために離れていった。
「弾米君も一緒に誘おうかなあ」
(良いんじゃねぇの?笹川と雨宮にも声かけようぜ!)
「うん。章も誘おう」
 国原は、縁日を見て回っているだろうクラスメイト達に会いたくて、歩く方向を変えてみるのだった。


 国原の腕の中では、赤白青のクッションと、灰色のツインテールが、仲良く抱かれていた。
 
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