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サラダとミーンミンミン(サラダ/マリアン)

「サラダ、どうしたの……ってやだ!何それ」
 サラダの元へ駆け寄ったマリアンがぎょっとして数歩後ずさる。
 サラダは手に持っているそれをマリアンに、ずいっと近づけ、言った。
「せみ!」
 学園内に落ちていた蝉の死骸を拾っていたらしい。
 もう鳴かないそれを不思議そうに見るサラダは、小走りで狼の元へ寄っていく。
「せみ!」
 ずいっ。
 手を目いっぱい伸ばし、狼に、七日の命を全うした夏の音楽家を見せ付けるサラダは、次に言う。
「おはか!」
「……ああ、墓を作ってやりたいのか?」
 狼は即座に理解し、尋ねてやった。サラダは大きく頷いて、土がとってもだいじでしょ、と続ける。
 死んでいる彼(?)がいつまでも硬い廊下に転がっているのが、サラダとしては酷く理不尽に思えたようだ。
 お墓を作ってやろうな、と狼が優しく告げると、サラダも安心したようで、どこに作ろうかと真剣に悩み始めた。
 出来る事なら、ふかふかで暖かい土が良い。頭の中で思い描くぽかぽかのベッドの様なお墓なら、蝉も安らかに眠れるだろうと確信していた。
 そして、死んでいる蝉を持ったまま

「あまみやー」

 近づいちゃいけない相手に近づいていってしまった。
 何してるのサラダ、彼は虫が嫌いなんだから戻ってきなさい。
 と、呼びかけてももう遅い。
「あまみやー」
「ん、何で俺の事知って……いや、見た事あるな?ハングマンの子だっけ?」
 ほけーっとした表情で近づいてくる嫌いなもの配達屋に、その存在を思い出してやる彼は首を傾げる。
 逃げて、雨宮君逃げて。早瀬君、来て。今すぐ来て彼を連れて瞬間移動して。
 力いっぱい祈ったが、サラダは何の気遣いもなく六本足の眠れるミンミンを目の前に突き出してしまうのだった。
「おはかは、どこにすればいーとおもう?」
「え?お墓……って、ぎゃあぁーっ!」
 呆然とする狼。
 合掌しながら、ごめんね転校生君、と心で謝るマリアン。
 いや、口に出して謝れよ姉ちゃん。
「何それ!?何で俺に見せるのそれ!?はい!?どうしたハングマンの子!!」
 素晴らしい突っ込みを有り難う雨宮君。そしてごめんなさい雨宮君。
 サラダは慌てている彼を見て驚いたのか、一緒にきゃーきゃー喚いている。それどころか円を描くように走り回ってミーンミンミン!とか何故か蝉の鳴き真似をしているくらいには混乱していた。
 ああ、お魚呼ばわりされた次子よ、早くこっちに来い。
 末っ子のよく分からない行動を止めろ。
 笹川君助けて。雨宮君を助けて。早瀬君早く来て。瞬間移動が必要だ。

 廊下は一気に騒がしくなり、サラダは校庭に飛び出し、マリアンが慌ててサラダを抱き締めて止め、狼が雨宮君をなだめてくれるという、なんとも大混乱な風景になってしまった事を、深くお詫びしたい。
 
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