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ハングマンと残りの迷子(サラダ/マリアン・ハングマン)

「マリアーン!」
 確りと握られた手が少し痛いが、狼はサラダについていってやる。
 嬉しそうに走っていく末っ子は、スカートをはいた白髪の青年(?)の前で立ち止まり、再び名前を呼ぶ。
「マリアーンッ」
「良かったぁ、会えて!もう、サラダ、何処に行ってたのよ?」
 マリアンは安心したように表情を明るくし、しゃがみこむ。そのままサラダを抱き締めると、視線を上に向けた。
「あなたが連れてきてくれたのね?狼絢藍」
「私を知っているのか?マリアン・ハングマン」
 フルネームを知られていた事に、マリアンは驚く。が、サラダを見て、落ち着きを取り戻した。
 暴れん坊として有名なサラダ・ハングマン。その子の姉というだけで、何らかの知名度はあるのだろうと判断しての事だった。
「あたしね、美人さんの名前は大抵覚えてるのよ」
 凛とした顔立ちに、女性らしさを多く含んだ、それでいて芯の強そうな瞳。確かに美人である狼に微笑を向け、マリアンは立ち上がった。
「有り難う……本当に」
「いや、別に。大した事はしていない」
 ふ、と笑みを浮かべ、首を横に振る狼。
 謙虚なのだな、とマリアンは思った。それがとても好印象であった。
 マリアンと狼の間では、サラダがきょろきょろと周りを見回している。そして、ついに声を上げた。
「さはぎんはー?」
 そう、いないのだ。次子である、水妖が。
 マリアンが苦笑して、小さく頷く。
「そうなのよー、サラダ探してる間にはぐれちゃって」
「もー!二人ともまいごだから、サラダがさがしてあげなきゃだめになるー!」
 頬を膨らませるサラダ。
 そんなサラダの頬をつつき、狼が優しく笑う。
「ほら、また割れちゃうぞ?」
「だぁめ!」
 急いで頬を両手で押しつぶすサラダに、マリアンがくすくすと笑った。
「ごめんなさいね、砂波銀探し、付き合ってくれるかしら?」
 サラダが狼をひどく気に入っているのを見て、長女(?)が提案する。
 サラダは、狼ともっと一緒にいられるのだと思い、飛び跳ねて喜んでいた。
「お姉ちゃんといっしょにさがすとねー、ひゃくまんにんだよ!」
 いきなり人数が増えたが、何なのか。
 きっと、正しくは『百人力』である。多分。
「砂波銀はどこにいるのかしらね?」
 マリアンが息をほう、と吐き出す。
「さはぎんはねー、おさかなだから、プールにいる!」
 サラダの口から、安直な答えが飛び出した。
 魚……ではないのだが、サラダにとっては水妖も魚も同じようなものなのだろう。
 プールはいくつかあるが、砂波銀はサラダが運動場に飛び出して行ったのを追いかけたというので、恐らく校庭の一角にある方のプールだろうと、マリアンが言う。
 何故プールにいる事前提で話が進んでいくのか。
 よく分からない兄弟である。
 
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