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筆文字HTML
 幾何学模様から始まり、幾何学模様で終わる。

 *勅命*
 *くびる縄 穴あきの地*
 *落ちる昼 逆さまの剃刀*

 墨を滴らせた筆先を紙に当て、すらすらと思い浮かんだ言葉を書いていく女子生徒は、何かしらの文様を文字の最初につけ、そして文字の最後にもつけ、囲んでいた。
 幾何学模様を書き込まねば召喚陣として成立しない、というのも中々面倒である。
 まるでコンピュータのようだ、と狸の耳のカチューシャをつけた女子生徒は思っていた。
 <head>と</head>のような、<body>と</body>のような。幾何学模様と幾何学模様の間に召喚の糧とする文字を書き込まないといけない。
 まるでプログラムのようだ、とフェイクファーのポーチを腰から下げた女子生徒は思っていた。
 実際、召喚陣というのはプログラムの一種なのだろう。入力された情報を元に一つの指示を形成し、実行するのだ。
 現在女子生徒が書き込んでいる指示は、召喚のそれである。
 召喚する相手のいないこの学生は、召喚者の血筋であるが故召喚科の指揮者クラスで学んでいた。
 空の教室で一人、自分の机に習字の道具を並べ、半紙に書いていく、文字、文字、文字。
 *鳴かぬ鶯 笑わぬ翡翠*
 *湾曲するガラス板*
 *立待月*

 そうして、ぴたりと筆を止めた。
 最後に落款すれば、召喚陣は成立する。
 彼女は印鑑を持っている。持っているが、押さない。
 そのまま乾くのを待ち、そっと折りたたむ。
「……これで、二十枚目」
 メモに鉛筆で。チラシの裏にマジックペンで。画用紙にクレヨンで。半紙に筆で。
 幾何学模様と幾何学模様の間に詩のような何かを書き込んでは、それを保存。
 そうして魔術を、召喚を、ストックしていくのだ。
 何かあった際、印さえ押せばすぐに発動できるように。
 踏む手順の多い、面倒な召喚の方法だった。
 しかも筆で書いたものが一番強力な術を発動できるのだから、面倒臭いことこの上なかった。

『初心者にも分かる楽しい召喚術!』

 そう書かれた分厚い表紙の本を机から出す。
 図書塔から借りてきたそれのページを捲り、女子生徒……九狸田陸は、新しく用意した半紙に隅を落とした。
 丸描いてちょん。
 通常の召喚陣も描けなければいざという時に困るからだ。
 ただ、通常の陣を描いても九狸田が普段使っている文字のHTMLタグの方が強い魔力を発揮するのだから、燃費と効率が悪い召喚者である。
「……私の従属者は、誰だろう……」
 まだ従属者を持たない召喚術者が乾いた半紙を折りたたんだ。
 習字道具を片付けながら窓の外を見て、再び片付けを再開する。

「……卒業までに、出来るかな……」

 何とも気の長い話だ。
 
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