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おんころ完
 思ったよりずたぼろだった。
 服は引き裂かれ、肌にはいくつもの切り傷が走り、息は上がり、地面から起き上がる元気もない。
「……いてぇな、クソが」
 低く唸るような声で四月一日が言う。
「結界の破片が飛んできたときはびっくりでしたよ、びっくりびっくり……」
 吐き捨てるように外道が告げる。
 倒れているのは、五人だった。
 五芒星を描いていた五人だった。

 外道と四月一日はぴんぴんしていた。

 結界の壁が迫ってきた瞬間、二人は目を閉じた。
 体を貫く痛み。
 壁が体の中を通過する嫌な感覚。
 びりりと痺れる感触が走り、五角形の壁は互いに衝突した。
 砕け散る透明な壁。
 破片が舞う。
 結界の欠片が外道と四月一日の眼球や喉を狙ったかのように飛び交うのを身をよじらせるだけで避けきり、悪霊二人は目を開ける。
 結界の効果はこれでおしまい。
 ならばやり返そう。
 一には一を。
 五には五を。
 四月一日の爪が陰陽師の服を切り、皮膚を刻み、赤い液体を噴出させる。
 外道の両腕が女陰陽師の腰を抱き、振り回し、頭部を壁に打ちつけて割る。
 四月一日の蹴りが陰陽師の首を貫き、嫌な音を立て、泡を吹かせる。
 外道の手のひらが女陰陽師の顔の前で止まり、黒い波を広げ、錯乱させる。
 気が狂ったように叫び声をあげた女陰陽師が最後の一人の首を絞めた。驚く程強い力で締め上げ気絶させていた。男の首にはくっきりと女の手形が残って。
 そうして。
 星を描いていなかった陰陽師たちを。

 二人の瘴気が一気に、いっぺんに、圧倒的な勢いで吹き飛ばす。

「終わりかよ」
「あのー、私、帰ってうどん打ちたいんですけどぉ」
「あぁ? うどんだぁ? ……俺も里美に茹でさせっかなあ」
「うどん美味しいですよねー!」
 小麦粉でできた麺についてきゃっきゃと会話を始める、そこだけ幼い二人である。周りには血液まみれの水干の男女が転がっているのだが、それには一切目もくれない。
 四月一日の足元にはいつの間にか針が千本落ちていた。
 外道の足元にはいつの間にか五寸釘が千本落ちていた。
「腹減ってきたじゃねぇかクソが! 釜揚げうどん食うわ俺」
「いやー、素敵! シンプルイズベストですよ〜! 私、ちょっと贅沢して天ぷら作る予定なんですよー」
「よこせクソ悪霊」
「あ、駄目駄目ですー、うふふ。あの子と一緒に食べるんだから」
 瘴気で押さえつけた昆虫のような陰陽師に向かって、ゆらり、と針が浮く。
 細い悪意を目の前に声すら出せない陰陽師に向かって、ふらり、と釘が浮く。
「帰りますか」
「あたりめぇだ」
 空中に静止している針と釘。
 地面に縫い付けられている人間たち。
 二人は口角を嫌な角度に上げて喋っていた。
 昆虫採集の後は、標本に。

「「あばよ人間」」

 けらけらけらけらけら!!
 げらげらげらげらげら!!
 無数の鉄串が降り注いだのは直後だった。


「次のニュースです。ある町のある廃屋で、大量の遺体が発見されました。遺体の全てに釘や針が深く突き立っており、警察は事件として調査を……」
 ぷつん。
 つまらない番組を切り捨てて、狸の悪霊は朝飯を口に運ぶ。
 一方は少女のために栄養バランスを考えて作った理想的な朝食を。
 もう一方は相方に作らせた食べたいものを食べたいだけという、バランスの悪い朝食を。
 そういえば一人殺し損ねたっけ。
 二人は同時に思い出した。
 両足を釘と針まみれにして、涙と鼻水にまみれて震えていた、一人の人間。
「「お前らが望んだ結末だろ?」」
 そういって笑ってやった一人の人間。
 あいつはリベンジにやってくるだろうか。
 まあいいや。
 どうでもいいや。
 来たら来たで今度は殺そう。
「あー、美味しかったです! ご馳走様!」
「おい里美おかわり!!」

 空の茶碗が朝日を受ける。
 
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