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ケフォフ3
「なぁんで俺があいつのとこまで行かねえとなんねえんだよ、あぁ?」
 頭いかれてんじゃねえの? 死ねば?
 柄の悪い高木声が自警団に降りかかる。
 団長に危機が迫っている。頼むから助けに来てくれ、と自分たちの状況を飲み込んだ部下たちがあっさり懇願してくるのに、仙太郎は酷く面倒くさそうな顔をしていた。
「目玉が無数にある骸骨というからお前を疑っていたんだ」
「貴様ではないのなら捕らえる標的を変えるだけだ」
 通信機からはずる、ずる、と何かを引き摺る音が聞こえてくる。
 仙太郎は嫌な笑みを浮かべ、骨で出来た拳を部下たちに見舞った。

「胸糞わりぃ」

 一言そう告げて。
「疑ったことは謝ろう、しかし……」
「俺はてめえらみてぇな偉っそうな輩が大っ嫌いなんだよぉ! ぶん殴らせるか骨折らせるか顎外させるか網膜はく離させるか、それっくれぇのサービス受けてくれねえと頼みは聞けねぇなあ!」
 ひゃっひゃっひゃっひゃ!
 夜中の廊下に響く下品な笑い声。部下たちが怯むのを見て不機嫌そうな顔つきになった仙太郎が唾を吐く。
「つまらねえ」
 この程度で怯えるようでは仙太郎とまともに殴り合える者などいないだろう。乱暴な乱闘が大好きな狂骨仙太郎にとって、自分が犯人だと疑われていたことも団長が危ない目にあっていることもどうでも良かったが、暴力が振るえない事だけは我慢がならなかった。
 夜に学園の内部に残っている粋がった生徒を見つけて喧嘩を売りぶちのめす。それを楽しみに学園を徘徊していたというのにそれさえも邪魔が入った。
「つまらねえ」
 低い高木声が再びそういった。
「俺の喧嘩の邪魔する奴ぁぶっ殺してやんねえとなぁ。案内しろひよっこ共」
「……! では」
「その前にてめえら半殺しにさせろや、暇潰しにもならねえだろうがな」
 自警団の部下たちの声が詰まった。生唾を飲み込む音が静かな廊下に響く。

 自警団の団長は両足を掴まれ、廊下を引き摺られていた。
 気を失っているのだろう、力なく引き摺られるままに体を投げ出している。
 それを掴んで歩いているのは、骸骨だった。
 丈の長いコートを着込んだ、巨大な骸骨だった。
「カ……カ……」
 顎をがちがちと鳴らしながら、骸骨が歩いていく。
 周りに無数の目玉を漂わせているそいつは、ある部屋へ向かって一歩一歩進んでいくのだった。
 貯蔵庫。
 食堂とは別にある、食材を扱う学科の一室であるそこ。
 そこに向かって歩いていく骸骨に声が掛かった。
「集めた肉を食べましょう」
 カ……カ……と喉の奥から声を出し、骸骨が頷く。声の主は宙に浮いていた。無数に浮いていた。
「集めた肉を食べて、貴方に肉をつけましょう」
「欲シイ……肉体ガ欲シイ」
 骸骨が地を這うような声で答える相手は浮いていた。
 ぎょろり、と目玉たちが自警団の団長を見る。そうして一箇所に集まると骸骨の目の前まで移動して、告げる。
「我々が見つけたのです、人間の魂は我々に食べさせてくださいね」
 目目連。
 眼球がゆらゆらと揺れながら骸骨に語りかける。骸骨は再び頷いた。

 狂骨仙太郎は気ままに廊下を歩いていた。団長のことなどどうでもいいが、自分と同じ特徴を持った何者かが学園に現れたという事実には胸が躍る思いだった。
 これで自分と同じで乱暴ごとが大好きならばいいなと呑気に考える三つ目の妖怪は、団長がいたという場所を部下から聞きだし、ついでにボコボコに殴り倒し、一人で散策していた。
「おぉ?」
 足元に目をやる。何かを引き摺っていった形跡がある。ひゅう、と口笛を吹き、仙太郎は面白半分についていった。
 何を引き摺っているのかは興味がなかったが、それが貯蔵庫へ向かって一直線に続いているのを見て、にやりと口角が上がる。
 何かを食べるつもりなのだろう。
 それを邪魔したら、そいつは怒るだろうか。
 そうしたら、感情の赴くままに乱暴な喧嘩が出来るだろうか。
 あぁ、早く喧嘩を売りたい。
「ひひっ!」
 上機嫌な子供のように声をあげ、仙太郎が跳ねるように引き摺った跡を辿っていく。
 その姿を、目目連の一部がじっと見つめていた。

 しゃぁ、こ。しゃぁ、こ。
 包丁を研ぐ音がする。
 目を覚ました自警団の団長が見たものは、疲労困憊して声を出す気力もなくなった、行方不明になっていた生徒たちの姿。
 そして、天井からぶら下がっている肉、棚にしまわれた野菜。
「ここは……」
 しゃぁ、こ。しゃぁ、こ。
 包丁を研ぐ音がする。
 今すぐ扉を開けて逃げ出そうと手をかけたが、外から施錠されているようでびくともしない。団長は焦り、貯蔵庫の中で蹲っている生徒たちを見た。
「早く! 此処から逃げ出そう!」
 その声に。
 頷く者はいない。
 しゃぁ、こ。
 包丁を研ぐ音が。
 止まった。
 
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