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ケフォフ2
 足元に転がる自警団を見下ろして狂骨はつまらなそうに鼻を鳴らす。ある者は痣だらけになり、ある者は関節を外され、ある者は口から血を流していた。
 ぱきり、と指を鳴らした三つ目の妖怪は唾を吐く。ほぼ無傷で立っている彼若しくは彼女の表情に喜びはもうなかった。
「つまらねえなぁ」
 次の標的を探そうと目玉を四方八方へ飛んでいかせながら、仙太郎は自警団から離れていった。意識を失った自警団の男たちの中、隊長格が狂骨に向かって手を伸ばし、力尽きる。
 純粋な暴力だけで相手をぶちのめした喧嘩と私闘の申し子が、ふらりと寮へ戻っていく。階段を上がり、不機嫌そうに自室の扉を開けた。
 お帰り、と声がする。それに口角を上げ、目を細めた。

 次の日の夜も仙太郎は学園の敷地内にいた。目玉を無数に漂わせ、開いている窓からその目玉を潜り込ませる。学園の入り口に掛かった鍵を目玉で押し開けると、何事もなかったように入っていった。
 仙太郎が学園に入って暫くした頃の事だ。忘れ物を取りに来ていた生徒が姿を消したのは。
 朝を迎え、調査員が学園を調べて回っている頃、警備員兼用務員をこなしている細手の細谷さんと小袖の手の袖谷さんが喋りこそしないものの、目玉が無数に漂うそこへ生徒が足を踏み入れた瞬間悲鳴が聞こえた、とジェスチャーで教えてくれた。
 影で見ただけで分からないが、丈の長い服を着た誰かが目玉の中心にいたという。

「失礼」
 包帯やガーゼで手当てをした自警団が召喚科の扉を開ける。彼らは無遠慮に教室の中を歩き回り目当ての人物(?)を探すが、そこに紫色の髪をした三つ目はいなかった。
「狂骨仙太郎の姿がありませんね」
 眼帯で片方の目を覆っている自警団の団長が教師の鷹羽へ声をかける。鷹羽は自警団をいぶかしむように見ながら、教科書のページを捲った。
「御境、次、読んでみろ」
「……」
「御境」
「ほへ」
 がた、と椅子が押しのけられる音がする。思わず立ち上がったはいいが寝ぼけ眼で教科書も開いていない御境が困ったように立ち尽くしていた。
「……一平屋軽助、読めるか」
「あ、へい」
 自警団を置いて授業が再開された教室。団長は息を一つついた。仙太郎の居場所を隠しているのだろうか。
「先生、狂骨仙太郎の受け渡しを要求します」
 静かに告げた団長に、鷹羽は鼻で笑うように返した。
「それは無理だな。狂骨は絵以外で召喚する事が出来ない」
 召喚の陣を描いたところで狂骨は陣の上に現れない。特殊で異様な存在であるらしい。
 舌打ちを一つ、自警団は教室を去っていった。

 自警団は夜の学園にいる。
 毎夜毎夜仙太郎が学園に入り込んでいること、生徒が行方不明になっていること、犯人の特徴、全てを繋げてみれば仙太郎が事の発端であるように思えた。
 こうなれば仙太郎が事を起こした直後に現行犯逮捕する以外あるまいと踏んだらしい。寮の自警団は学園までわざわざやってきていた。
「狂骨仙太郎、学園に入りました」
 通信機での報告に団長が小さく応じる。仙太郎が廊下を進んでいくのにあわせて自警団も身を隠しながら尾行を続ける。
 仙太郎の歩くスピードが上がった。自警団もそれを追いかける。狂骨が曲がり角へと姿を消したのを確認した自警団の部下たちが急いで角を曲がった瞬間。

 吹っ飛んだ。

「さっきからうろちょろしやがって……俺様と遊びてえなら言いやがれってんだ。あぁん?」
 凶悪な笑みを浮かべ、左腕を大きな骨に変じた仙太郎が立っている。
 気付いていた。尾行に。
「だ、団長!」
 通信機に声をかけた瞬間
「うわあぁぁぁっ!」
 通信機の向こうから、その団長の声がした。
「あ?」
 仙太郎が自警団を鬱陶しげに見つめる。団長の声は最後にこう告げて、それきり聞こえなくなった。

「狂骨じゃ、ない」
 
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