ケフォフ1
骸骨が人を襲う。
いつからかそんな噂が学園に流れ出していた。
夜な夜な呪いの力を振りまく骸骨が生徒を襲い、あの世へと引きずり込むと。
一昨日もいなくなった。
昨日もいなくなった。
そして今日もいなくなる。
学科はランダムに。
毎夜、生徒が一人ずつ。
無数の目玉を従えた骸骨が生徒を浚っていく。そんな噂は三日とたたずに広まった。
生き血を抜いて浴びるのだとか、魂を食らって不老不死になるつもりだとか、そんな下らない尾鰭をつけて、あっという間に。
狂骨仙太郎は嫌な笑みを浮かべて廊下を歩いていた。あまり機嫌が良くないときの笑みだ。
ぎしりと奥歯を噛み締めながら低い笑い声をあげ、仙太郎は辺りを見回す。
獲物が一匹もいない。
狙っている獲物が今日に限って一人も見当たらないのだ。
呪いを振りまく骸骨の噂を聞きつけた生徒たちが警戒して夜の校舎に残らなくなっているのだと仙太郎はすぐに気付き、寮の方へ戻っていくが、そこにも人の気配はなかった。
皆、扉を閉めて息を殺している。何者の侵入も拒むように硬く扉を閉ざして鍵を閉めている。
つまらない。仙太郎は正直そう思った。なんてつまらない。これでは引っこ抜けないし吐かせることも出来ないではないか。あの好戦的な目はどうした。何故噂程度で引きこもっている。
硬い靴音が聞こえる。
それらは仙太郎を取り囲む。
寮の自警団がぐるりと仙太郎を包囲した直後にリーダー格らしき男が仙太郎に刀を突きつけた。勢いが良すぎて仙太郎の頬が切れた。死ぬ前に宿していたものと同じ赤い血液がたらりと垂れた。
「狂骨仙太郎だな」
「……ひひっ」
「貴様を校内連続誘拐事件の容疑者として捕らえる。大人しくきてもらおう」
「ひひひ」
頬にじんじんと居座る痛覚。仙太郎はただ笑う。
眉間に皺を寄せ、自警団たちを睨みながら上機嫌に笑っていた。
仙太郎を守るかのように無数の目玉が浮かび上がり、周囲を旋回し始める。
「まさか我々を浚うつもりでは!」
「おのれ狂骨!」
血の気の多い自警団を前に仙太郎はひひ、と笑った。愉快な気分だった。獲物が目の前にのこのこ現れたのだから。
全員が刀を抜く。仙太郎に向かって突きつける。
直後のことだった。
「ひゃぁははははははぁっ!!」
仙太郎は、喜んだ。
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