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- ナノ -
五人2
 千代松は部下たちと庭を散策していた。ただの散歩ではない。散策だ。何かを探しているのだ。
 しゃがみこんでは草を見つめ、首を傾げたり横に振ったりする。たまにドクダミを摘まんでは嫌そうに眉をひそめ、しかし摘み取っていた。
 千代松の持つ小さな紙には上役からと思われる字で、こう書かれていた。

『六種の薬と六種の毒を敷地にある物で作る事』

 名も知らない雑草と呼ばれるそれらと、毒草・薬草の違いをきちんと見分けられなければいけない上、それらで薬を作らなければならない。
 四人の部下を従えた千代松は、頬をかきながら呟く。
「……医療部隊か調合班なら簡単に作れるだろうけど」
 上役は何も本格的な薬を期待しているのではない。応急処置程度の簡易的な薬を作れる実力を持てといっているのである。
 ううん、と声を漏らし、千代松が日陰に生えている小さな花を摘み取った。
「これは茎に痺れを生じる毒を宿してる」
「その通りです千代松殿! 教えたことをすぐに吸収なさるとは、なんと素晴らしいお方でしょう」
 千代松のすぐ後ろで、嬉しそうに拍手をする元暗殺者がいた。青鷺はうっとりと千代松を眺めて賛美の声を送る。溺愛といっても過言ではない。
 照れたように笑った千代松を見て、三名の部下がくすりと声を漏らした。
 割と親しみやすい隊長の下につく三人は、千代松の柔和な態度のお陰で怯むことなく隊長に物が言えた。
「隊長、他に生えている植物がありますよ。見落としのないよう」
「あ、そうだね」
 千代松殿に何たる言い草、と青鷺が青筋を浮かべるのに苦笑しながら千代松本人が素直に返す。そうして足元に目をやり、お、と嬉しそうな声をあげた。
「オオバコじゃん! 昔せきが止まらなかったときに使ったなぁ」
「おお、千代松殿! 昔の記憶まで鮮明に思い出すとは、何と聡明な!」
「ほ、褒めないでいいです青鷺殿!」
 聡明というほど聡明ではない。
 千代松はオオバコを摘み取り、そしてふと気付いたように顔を上げる。何故今まで気付かなかったのだろうというように。
「ねえ、生垣に生えてるのも、とっていいんだよね?」
「敷地内、ですからね」
「カラスウリとクズ、生えてるよね」
 ですね、と三人の部下が声をそろえた。千代松はすぐさま生垣へと手を突っ込む。下のほうで見つけたカラスウリとクズの根を掴み取り、ふにゃりと笑った。
「一気に見つけた!」
「良かったですね、隊長」
「うん!」
 何だか子供のような笑顔だ。感情を目いっぱい表している表情に、青鷺が思わず見とれる。なんて保護欲をそそるお顔だ、とか何とか言っているが、過保護なだけなので無視をしたい。
「後は、蔵だな」
 千代松はゆっくりと立ち上がる。蔵の荷物でも使う気ですかと見つめられ、やや慌てたように首を横に振ると言った。
「蔵の隅にタンポポが生えてたんだよ」

 六つの白い小皿に薬を。六つの黒い小皿に毒を。
 それぞれ粉のようにして盛られているそれを見て、上役たちはほうと息をついた。
 薬草はいたるところに生えていた身近な植物たちで何とかなったが、毒草というのは中々見つからない。仕方がないので家の中に忍び込み、ジャガイモだのモロヘイヤの種だのを調達するほどだった。
 いいのだ。敷地内なのだから。
 更には熟していない梅を取ったり、犬の精霊にとっては毒という意味でニラ科の植物を引っこ抜いてきたりと手を尽くした。
「割と大雑把にしか、出来ませんでしたけど」
 そういって照れたように笑う千代松。
 部下たちがかき集めてくれた様々な物を使って作り上げた毒と薬は、千代松にとって自信の品であるようだ。
「これは同じものではないか?」
 千代松の伯父である桜一郎が、黒い小皿の粉と白い小皿の粉を指差しながら問いかける。見た目も質感も全く同じそれを見て、千代松は素直に頷いた。
「はい、濃度を変えてあります。薬は過ぎれば毒となりますから」
「うん、成る程」
 上役がいても物怖じしない。千代松は変なところで肝が据わっている。
 桜一郎の息子たちは、家督を争うライバルが中隊長の試験に挑戦しているのを目の当たりにして焦っているほどだった。
「上役殿」
 桜一郎が上役へ目を向ける。態度は大きいが体格は小柄な犬の精霊が、ゆっくりと頷いた。
「ま、合格でよかろう」

 第二試験、やはり簡易的に合格。
 
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