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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
盗4
 軽助は何処に。
 水晶玉を盗むなんて大それたことをするような子ではないと思ってはいるが、それでも直接会って確かめなければならない。
 高際は軽助の携帯電話の番号を押した。が、電源が入っていなかった。
 軽助のいきそうな場所を当たってみた。が、そこにもいなかった。
「くそ、いったい何処に……」
 家に戻ってきた高際が口惜しそうに呟く。
 居所が分からなくなる事は今までに何度もあったし心配はしていなかったが、今回は種類が違うのだ。
 見つけ出さねば。真実を聞き出さねば。
 焦る気持ちを抑え冷静を保とうとする長男の後ろで、ひょっこりと顔を出す茶色があった。
「ねえ、軽助のいる場所、占ってあげよっか?」


 あと二つ。
 水晶玉をある場所へ安置しながら、狸は一人ごつ。
 その狸は、軽助の姿をしていた。
 巨大な五芒星を描くように置かれていく水晶玉。その中心には、一平屋家がある山。
 綺麗な五芒星を描くのに必要なのは、南西と北西の二つのみ。しかし、肝心の水晶を扱う店が他にあるかどうか。
 そうそう似たような形のものはない。それは分かっている。何としてでも見つけ出し、盗み出し、儀式の糧としなければ。


 色紙に召喚陣を描いたものを無造作に置きながら、此方の軽助は溜め息をついた。
 残るは南西と北西。
 星の中心にあるのは、一平屋家。
 逆の五芒星を描き、軽助は家にあった水晶を思い出した。
 今頃兄弟に発見されているだろうか。勘が強い三番目の兄は全てを察しているだろうか。
 走り出す。
 走り出す。
 バスに飛び乗り、南へ向かう。
 あの狸は。
 あの旧友は。
 元気にしているだろうか。
 まだ諦めていないのだろうか。
 人気(ひとけ)のない荒れた道でバスを降り、軽助は走った。
 石碑が立つそこが、軽助の目指している南西の地点。
 色紙に五寸釘を打ち込み、地面につきたてた。

「……元気にしてやしたか?」

 軽助の声がする。
 軽助は振り向く。
 同じ姿、同じ口調、同じ声で、それは立っていた。
「まさか、こんなに早く、出会えるなんて」
 息を切らして、軽助は答えた。
 風が吹く。風と共に煙が発せられる。
 片方の茶色は黒へと変わっていく。


「軽助はねえ、何かを阻止しようとしてる気がするよー」
「気だけか!」
 高際に背負われながらタロットをひらひらさせる日浅。
 日浅の占いは半々の割合で当たる。五十パーセントだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦。
 しかしそれは見ず知らずの相手に限られる。
 行動パターン、性格、思考回路を熟知した家族を相手に占うならば、その的中率は八割を超える。
「軽助は水晶を盗んでないよ。僕は軽助のこと、何だってお見通しなんだから」
「そういえば、軽助はお前のこと怖がってたな。何でもかんでも言い当てられるからって」
「僕、凄いでしょ!」
 えっへん、と背中から聞こえた。
 それに脱力しつつ高際が笑えば、“何でもかんでもお見通しの弟”はタロットの束を器用にシャッフルして、一枚めくる。
「あ、危ないかも」
「は!? どういう意味だ日浅!」
「急いでお兄」


「覚えてるか? 軽助。彼女とは、お前の家で初めて出会ったんだ」
「よしなせえ、あの子はもう死にやした」
 黒い毛並みの狸が軽助を見据えている。
『蘇生術』
 禁術であるそれを探し続け、ようやっと見つけたのだ。
 黒い狸は遠い目をしながら笑う。
「綺麗な子だったろ」
「よしなせえって」
 五芒星の中心で自身を犠牲にすれば望んだ対象は蘇る。
 絶対に会えはしないが。
 彼は、薄く笑みを浮かべていた。
「人間さえいなければ」
「あっしだって、あの子が死んで悲しくなかったわけじゃねえですけど」
「じゃあ、分かるだろう。邪魔はしない事だよ」
 逆五芒星を描き効力をなくそうと奔走していた軽助は、目の前の旧友が笑っているのが癪に障った。
 自分自身を犠牲にして、笑っていられるのが悲しかった。
 
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