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盗2
 ちょこちょこと家の中を歩く一人の少女がいる。厳密に言えば、少女ではなく母である。
 ピンク色のセーターとパステルカラーの半ズボン、アニマル柄の靴下という子供チックな姿をした狸は、子供たちの部屋を掃除して回っていた。
 家を綺麗に保つのも重丸の役目であるらしい。
「軽ちゃんの部屋、ごちゃごちゃ」
 戸を開けて第一声がそれである。
 上着は床に散乱し、本は読んだら読みっぱなしで棚に戻されないまま机の上や物の上に置かれている。ゲームの充電器とコードが床を這いまわり、木の根っこのようである。
 机の隅に置かれた金属製の腕時計は軽助には買えない値段だろう、恐らく兄弟の私物を無断で拝借しているものと思われる。きちんと返しておかなければ。
 すちゃ! とハンガーを持ち出した重丸は、さっさと上着をかけて壁にかけていった。これだけで床が見えてくる。
 次に本を棚に戻す。並べ方が適当な本棚には、一巻、五巻、二巻、別の二巻、八巻、と出鱈目に漫画がつめられており、それを挟むようにして小説が入れられていた。何ともカオスだ。
「母さん、掃除して……うわ!」
 声が聞こえ、振り向いた重丸が見たのは、充電用のコードに足を引っ掛け動けなくなっていた長男の姿だった。
「高ちゃん」
「掃除を手伝いにきたんだけど……軽助の部屋、汚いな!」
 きちんと整理されていて掃除する必要のなかった高際の部屋と比べると、散らかっている軽助の部屋というのは衝撃だったのだろう。
 手伝ってくれるのー? と声をあげる重丸に、高際は頷いた。平屋といっても何人もの家族が暮らしている広い家だ。それなりに手は必要だろう。
「とりあえず俺は本棚を片付けるよ」
「うん」
 コードを拾い上げ、断線しないように緩く巻き、事前に持ってきていた小箱に入れ始める重丸。
 それに背を向けるようにして本棚をそろえ始める高際は小さく溜め息をつくと、漫画別に巻数を揃え、漫画は漫画、小説は小説、ついでに自分の部屋から勝手に持ち出された読み物を回収、と忙しなく整理をし始めた。
「高ちゃん、この時計、高ちゃんの?」
「……え? あ! 俺の腕時計!」
「はい、どーぞ」
「有り難う、母さん……軽助、あいつめ……」
 母は当然といった顔で他の兄弟の持ち物を一箇所に集めている。
 どうやら軽助の部屋は、自分の持ち物と拝借してきた兄弟の持ち物が混在して散らかっているようだ。
「まったく、後で説教だ……ん?」
 またも自分の部屋から持ち出された小説を回収しながら、ふと本棚の奥にある箱に目がいった。ダンボールだ。びりびりに破かれた上の蓋には何かが張り付いていたのだろうが、それが何なのかは分からなかった。
「……母さん!」
 高際は声をあげる。
 ダンボールの中でころころと転がっている、透明な球体。
 ニュースで取り上げられていた盗品が、そこに隠されていた。


 触れるとびりっときたが、我慢した。
 数枚単位で束になっているお札を掴み、そのまま持ち去る。
 悪霊退散だの退魔だのそんな事が書いてあったが、果たして効き目はあるのだろうか。
 少なくとも自分にはあまり効いていないな、と感じつつも、軽助はびりびりと痺れるそれらを鞄の中に突っ込む。
 次に姿を見せたのは森の中だった。色紙を一枚と、何処からくすねてきたのか、五寸釘を一本、地面につきたてて、そうして姿を消した。


『次のニュースです。またも大玉の水晶が盗まれました。目撃者の証言によりますと、大きな獣が水晶をくわえて逃げていったとの事で、警察は事件との関連性を調べると共に――』
 
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