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- ナノ -
盗1
 パン屋、雑貨屋、本屋、人ごみ。それらをすり抜けるように、一匹の茶色が駆けていく。
 金も払わず品物を掠め取っていく茶色。
 パンを齧り、チョークと色紙を鞄にしまいこみ、分厚い書物を手に、追っ手から逃げていく茶色。
 獣の姿になり、人の姿になり、別の人間の姿をとり、追っ手の目をくらまして逃げ続けるそれは、召喚される立場にあった。
 本来ならば教師が生徒に罰則として与えるはずの『召喚を防止する首輪』をはめたそれは、首輪さえも掠め取ったのだろう、誰の召喚にも応じずにただ逃げ続けた。
 学園の敷地に入りこみ、廊下を走り、召喚術の教科書が何冊も保管されている図書室にもぐりこむと、何の手続きもなしにかっぱらっていく。
 わき目も振らず学園から脱出する茶色い、狸。

 その姿は監視カメラにしっかりと捉えられていた。

 一平屋軽助。
 盗品だらけの化け狸が走り去っていく。


 同じ頃、宝石店から大玉の水晶が盗まれたと、ニュース番組が告げていた。
 
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