雷使いと猫耳と風
「ねーねー、ボトルお兄ちゃん!」
「てめぇ」
とある教室前の廊下。
学園の治安を維持する会へ出席しようと足を勧めていたボルトを、少女が呼び止めた。
「今日も治安守ってくれるのー?」
「そのつもりだが……誰がボトルだ」
猫耳帽子の少女、来栖藍を睨みつけるボルトだが、藍本人に気にした様子はない。
ちょこちょことライダースーツの怪人の周りを回る少女は、次いで口を開いた。
「ねぇ、悪者は見つかった? ボトルお兄ちゃんは強いから悪者やっつけられるよね! ふぎゅう!」
「ボ、ト、ル、じゃ、ねぇよ!」
片手で藍の顔を挟み、うりうりと動かすボルト。
ぷー、と突き出た唇から変な音を出し、ボルトの手で遊ぶ来栖藍。
天真爛漫な少女と短気な雷使いの勝負は、間違いなく来栖少女に分があるだろう。
「もしも悪者が来たらさ、そしたらさ、ボトルお兄ちゃん呼ぶからね! 来てね!」
「……わざとだな?」
「ボトルお兄ちゃん、つよい!」
「わざとだろ」
きゃっきゃと無邪気にボルトを褒めてくれている少女に無駄な青筋を浮かべるフルフェイスヘルメットの青年は、名前が違う一点を突っ込み続ける。
短気という割りに暴れないのは某次男よりも大人である証拠か。
溜め息を一つつき、廊下の窓を開ける。
爽やかな風が吹き込み、そして少女の驚いた声が響いた。
「帽子ー!」
猫耳の帽子が突然の風によって飛ばされたのだ。
ボルトが床を蹴り、キャッチする。
「ほらよ」
少し腰を屈めて被せると、ボトルお兄ちゃんつよい! と喜んでくれる少女にやや目を細めた。
「だから俺は……」
「あ! 呼ばれたからいくね! ばいばいボトルお兄ちゃん!」
「……ボルトだって」
とある学園の日常風景。
雷使いの、いつもの光景。
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