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- ナノ -
死霊のハラワタ

 午前三時四十五分。
 合わせ鏡の中央で呪文を唱える。
 眠りを妨げられし魔の物は怒りに満ち。
 呼び出せし者の命を糧に世を呪うだろう。

 そんな噂を誰が流したのかは分からない。
 鵜呑みにした生徒は蝋燭を片手に鏡のある教室へ足を運んでいた。
 朝日が昇る少し前。
 鏡の間に体を滑り込ませ、生徒の口が呪文を放った。
 それは少しの好奇心からだった。
 世を呪いたい訳ではなく。
 鏡が怪しい光を放つ。
 大きな角と渦を巻いた瞳が、鏡からゆっくりと出て来るのを、生徒は呆然としながら眺めていた。

「誰だ、我が眠りを妨げし愚か者は」

 低く響く魔の物の声。
 長い指が生徒の顎をなぞる。
 身を強張らせ、鏡より出でた悪魔の声をただ聞いている生徒に、魔物は怪しく笑っていた。
「世を呪うか、世を祟るか、世を殺すか! 我に五体を差し出し世を滅するか!」
「わ、私、そんな……そんなの、嫌……!」
 少女が怯えたように悪魔を見上げる。
 悪魔は震える女子生徒の肩を掴み、そして、突如苦しみの声をあげた。
 黒い炎に包まれた腕が、みりみりと裂けていく。
「きゃあぁぁぁっ!」
 悲鳴を上げる少女の前で、魔物の腕が両方とも千切れていく。
 そして少しの間を置いて、足さえも千切れていく。
 ぶちぶちと嫌な音をたてて、悪魔はあっという間に五体不満足へと成り果ててしまうのだった。
「……娘よ」
「ひぃ!?」
「貴様の手足を、寄越すが良いいぃぃぃっ!!」
「い、いやああぁぁぁっ!」
 甲高い悲鳴が上がり、教室の扉が乱暴に開かれる。
 少女が涙ながらに走り、逃げ去っていくのが見えた。

 千切れた手足が空気に霧散していく。
 けらけら笑いながら、悪魔ことナゾノセンパイは泣いて逃げる女子生徒にひらひらと手を振っている。
 そう、くっついたままの手を。
 千切れて離れたように見えたのは、手足ではない。
 手足の形をした、黒い炎であったのだ。
「まった来ってねぇ〜!」
 大成功した悪戯に上機嫌なナゾノセンパイの横で。
「……あぁ、そうか」
 低く唸るような、それでいて微妙に高い声が聞こえた。
「あら?」
「噂流したのも……てめぇだろ」
 何時の間に教室へ入っていたのか、其処には戦士三兄弟の次男が仁王立ちでナゾノセンパイを見据えている。
 びりびりと放電が繰り返される様を見ながら、大きな角を持つ彼若しくは彼女は、退散の必要性を考慮に入れた。
 直後。

「妙な悪戯ぁ、してんじゃねえぇぇっ!!」

 深夜に響く雷鳴!
 教室全体を巻き込んだ雷撃!
 きゃーっ! と本気なのかふざけているのか分からない悲鳴が響く。
 教室を焦がした雷が過ぎた其処には、怒りで肩を振るわせる十六夜と、黒い炎で全てを受け流したのか、何故か無傷でケラケラ笑っているナゾノセンパイの姿があるだけだった。
「食らえよ畜生っ!」
「伊達に悪魔やってないからねぇ〜!」
 
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