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略してちーママ(略すな)

「あー、おとーさん、ちゃんと食べて!」
 にんじんが指差して指示する先にいるのは犬島千代松である。
 犬千代は目の前に詰まれた砂の山に垂れた耳を更に垂らし、困っていた。
「おやさいも食べてくださーい、はい、どーぞ!」
「あ、有り難う……御座いまする」
 野菜という名の雑草をこんもり盛られる。
 只今、にんじんを妻にままごとの最中なのである。
「こどもー、食べてるー?」
「おぉ、食べておるよ母君」
 未だに子どもを子どもと呼ぶ母である。
 雑草を鷲掴み、がぶがぶ、と声に出してひょいと其処らに投げると、にんじんが満足そうに子ども役をしている温羅の頭を撫でに行く。
 いいこいいこー、と背伸びしてちょこちょこ撫でているのをくすぐったくはないのかと眺めている犬千代に気がついたにんじんが、怒ったように跳ね始めた。
「たーべーてっ!」
「父君、こういった戯れに慣れていないようだが?」
「はぁ……同年代とこういった遊びをした事が御座いませんで」
「なんで無視するのー!たべなさぁい!」
「は、はい……もぐもぐ、あー、美味しいなあ」
 温羅と会話をしている間、にんじんがぽこぽこと叩いてくる。
 小さな母親奮闘記である。
 小さすぎである。
「はーい、次はサラダですよー」
 木の葉をちぎって持ってきただけのサラダが目の前にずいと出される。
 マイペースなにんじんは、先程から延々と料理を出し続けていた。
「これがレタスねー」
 桜の葉を差して言う。
「これがキャベツー」
 アジサイの葉を差して言う。
「これが、とうもころしー」
 エノコログサ(猫じゃらし)を差して言う。
 殺しちゃ駄目だろ。
「あと、これが葉っぱね」
 西洋タンポポの葉を差して言う。
 これだけただの葉っぱ扱いか。
「ほぉー、沢山つんできたな……偉いぞにん……いや、母君」
「えへーん!」
 子どもに頭を撫でられてご満悦の母の図。
 満面の笑みを浮かべたにんじんは、めしあがれー、と紙皿に葉を乗せて子ども役と夫役に配っていった。
「どれっしんぐですよー」
 水をかけるのを忘れずに。
「母君は料理が上手よのぉ」
 温羅が笑って言うのに、にんじんが得意そうな顔をした。
 じゃあもっと作らなきゃ!
 そういって其処らの草を摘んでいく。
 食事のシーンしかないままごとがひたすら続いていく。
 家族団欒しかないままごとがただただ続いていく。
 四歳児の発想には仕事に行く夫や家事に追われる妻や学校に通う子どもといったものが無いらしい。
 ただ、ひたすら、仲の良い場面だけが続くのみだ。
「おとーさん、ジュースですよ」
「忝い……お母さん」
「どーいたまして!いひひっ!」
 草が山盛りになっていく食卓に笑う温羅とにんじん。
 小さな母が大きな夫と更に大きな子どもと暮らす平和な一場面。
「ねーねー、こどもー」
「うん?どうした母君?」
「いっしょにお昼寝してあげよっか?」
「はっはっは!そうか、それは有り難うのぉ!」
 
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