犬が困った物語
「何ぞこれ……」
旧校舎の屋根上。ぴょんぴょこ族のにんじんと、ままごとをしている犬島千代松――通称・犬千代――の元に一通の手紙が届いた。
中身は例の釘三姉妹救助依頼であり、差出人は芥川茶川。
恐らくお互い国原が知り合いである経由で届いたものと思われるが、人助けとあっては了承しない訳にはいかないのが犬千代だった。
「これは、急がねば……!」
「はい、おとーさん。ごはんですよ」
木の葉の上に石ころを乗っけた『ごはん』を犬千代の前に置き、自分もぱくぱくと言いながら食べるふりをするにんじん。
温羅という男性が戻るまでの間、小さなぴょんぴょこ族の相手をする羽目になった犬千代は、律儀に両手を合わせ頂きますと呟くと、同じようにぱくぱく言うのだった。
「おとーさん、おいしい?」
「お、美味しゅう御座いますぞ……お母さん」
「まー、よかった!」
とんとんとん、と土で作った団子を手刀で切るふりをしながらニコニコしているにんじんは、ふと向こうを見て言った。
「あ! おじちゃんは子どもなのね!」
「子供でけえな!?」
思わず素が出る犬千代。
にんじんと同じ方向を向くと、黒いコウモリ一匹と……なんか、こう、焼き芋から手足が生えているような変なのを二、三個持って帰ってくる温羅の姿があった。
捕まえたんだ……コウモリ。
犬千代が心中で呟いていると、温羅が屋根をかん、と踏む音が響く。
「おかえり、子どもー!」
あ、子どもって呼ぶんだ。
ぴょこぴょこ跳ねながら温羅の帰りを喜ぶにんじんを、温羅が優しく撫でる。どう見ても子どもは兎耳の方である。
「おとーさん、子どもがかえって来たよ、おかえりは?」
「あぁ、はぁ……お、お早いお帰りに御座いますな、御子殿」
「ん? おぉ、ただいま、父と母よ」
何と乗ってくれた!
しかしサイズ差が物凄い家族である。特に母。特に母。
だらーんと垂れ下がっているコウモリと腕の中でぴこぴこ動いている焼き芋……うわ焼き芋が動いてる! きめぇ! ……を持った温羅に手紙がきたと事情を告げ、犬千代は頭を下げた。
「わんわん、ばいばーい」
「わん……いや、もう、それで良いです」
見送られ、急ぐ先は芥川の元。
恐らく鏡の前に突っ立っていれば勝手に迎えに来るものと判断した犬千代は、屋根を蹴り飛び上がると適当な場所から本校の廊下へ入っていった。
現在の協力者、二名。
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