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タコの子の話

「何故、魔方陣一つまともに書けんのだ貴様はっ!!」
 魔女の振り下ろした拳が机を打つ。みしぃ、と嫌な音を立てて木製の机が踏ん張るのをビビリながら見ていた魔女の子供は、涙目になりながらあわあわと母親を宥めようとした。
「はははっは母上、おおお落ち着いて下され拙者拙者拙者あのう!」
 まずお前が落ち着け。
 しゃかしゃかと動く手と挙動不審に泳ぐ目が何とか母親を見ようと努力するが、滅茶苦茶恐ろしいのか顔がそっぽを向こうとしていた。
「グゥザァイ……」
「はははははい母上?」
「貴様、まともに勉強しておるのか? あぁん?」
「怖いです母上恐ろしいです母上!」
 中流家庭の母と子の小さな争いである。
 ヒルウォーカー家は代々上等でも下等でも無い中級の魔法使いを輩出する目立たない血筋だった。家系の始祖も有名魔法使いの補佐をしていたという普通の魔術師であるので、特に突出した子が生まれる事も無く五百年血だけは絶やさずにきた。
 それが、である。
 魔女オクタヴィア・ヒルウォーカーの息子、グザイ・ヒルウォーカーは膨大な魔力を抑えきれない事によって出る通称・魔女熱で寝込んだ事があった。魔女熱が出る子は魔力の塊。能力を開花させられる望みがあるという。
 其処でオクタヴィアは昼夜を問わず息子に教育を施してきたのだが……グザイはかなりの間抜けかつお馬鹿だったらしく、あんまり身につかずに終わっていた。
「貴様やる気はあるのか、あぁん? 我が家系初の魔女熱を出した子供だというのに自覚はあるのかゴルァ? おぉ?」
「ここここ怖い怖いです母上怖ゴフッ!!」
 ガクブルしながらそれを言うだけで精一杯なグザイは直後に四角くて薄い物で後頭部をやられた。
 外から危険物が飛来してきたのをマジでビックリしつつ飛んできた方向へ目を向けると、真っ黒なローブを羽織って手裏剣シュパパーみたいなポーズで郵便物をポストへ投げ込む誰か……というか郵便屋の姿があった。
 じゃあ後頭部を闇討ちしてきた四角くて薄いこれは郵便物かと拾い上げ、グザイは直後に固まった。

 フォレスト学園・魔女の子科、入学案内在中。

「……おぉ、流石はエゼグマ。仕事が速い」
 にたりと笑う母に冷や汗が止まらない。
 正直な話、グザイは別に魔女の血筋とか魔女熱とかどうでも良かった。
 周囲の上流家庭に見下される母親が、自分だけは見下されも馬鹿にもされないようにと魔法を教えてくれるのがただ楽しかっただけで、上級の魔術師になろうとかそういうつもりも無く暮らしていた。
「は、母上……?」
「魔術師の基礎だけでも覚えて帰ってこい、息子よ」
 母の優しい声が降ってくる。全ては自分の為なのだと分かっているだけに反対する理由もなかった。
 頭を撫でられ、入学案内に目を通しながら、グザイは羽ペンで入学届けにサインをするのだった。
 
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