×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
慰霊祭とポエマニー

「「いらっしゃいませぇー!」」

 双子の声に迎えられハロウィン喫茶に足を運び入れたのは、妖人科に所属する蛇の彼だった。
「いらっしゃいませ、悪戯が宜しいでしょうか、お料理が宜しいでしょうか」
 エルフ姿の野島結松が接客に入る。
 蛇の妖人である彼は、スタッフの問いかけに一言返した。
「僕の内なる声は求めている……極上の贄を」
「はい、畏まりました。只今担当の者が参りますので、少々お待ちください」
 答えを聞き、にっこりと笑みを浮かべたエルフの少年は、すぐさまキッチンに足を運ぶ。フライパンを片手に幼馴染と会話している骸骨メイクのスタッフを呼ぶと、調理担当の彼女に告げるのだった。
「確か国原さんだったよね? ああいう客担当」


「いらっしゃいませ、では、此方の席へおかけください」
 スカルメイクのスタッフが彼を席へ案内する。蛇の妖人である彼は静かに腰を下ろすと、早速メニューを見始めた。伏し目勝ちな彼の様子に、国原は静かに待っている。
 蛇の妖人、蛇一は小さく手を上げ、メニューを見ながら呟くように口を開いた。

「三叉の矛が天使の凍える御髪を貫き、赤いマグマも凍てつく氷塊に飲まれる……」
「はい、冷たいトマトのスープスパゲティがお一つ」
「その冷徹な息吹は氷雪を積もらせ、山をも白く染め上げる……」
「はい、ホワイトモンブランをお一つ」
「やがて煮えたぎる雨にすら天使の涙は注がれ、黒い沼に白い光が飲まれていく」
「はい、ホットカフェオレがお一つですね」
「空を歌う小鳥は告げる。悲劇の終焉を」
「ご注文は以上ですね、畏まりました」

 ぺこりと頭を下げ、キッチンにいる水妖に向かってオーダーを伝える骸骨のスタッフに、会計担当の魔女がどん引いていた。何よあれ何スムーズに会話出来てんの何あの子、みたいな目で見ていた。
「吟遊詩人が微笑んでいるよ、ワトソン君」
「お褒めに預かり光栄です、ミスター・ホームズ」
「ホームズ……いや、神を裏切ったこの僕が、義に従順な彼の名を騙る訳にはいかない」
「では、ナーガ・ラジャとお呼び致しましょう。……ナーガの王、どうぞごゆるりと」
 ここは西暦何年の何時代ですか、と尋ねたくなるような会話が繰り広げられていた。レジではマリアンがぐったりしていた。話を翻訳しきれなくなったらしい。
 フードつきポンチョを着たサラダが不思議そうに二人の様子を眺めていたが、よく分からない事をしている、と判断したのか、狼男担当の谷と一緒に遊びはじめてしまった。
「お待ち遠様でした、冷たいトマトのスープスパゲティです!」
 亡女相の介入によって会話はそこで中断されてしまったが、国原は至極真剣な様子で対応しており、客としてやって来た彼もまた真面目そうな顔で話していたので、ギャグでは無いのだろう。

「ああ、赤く滴る一雫が、僕の乾きを癒していく……」

 妖人科には中々愉快な人がいるのだなぁ、と国原は思った。
 この人は詩的センスがあるようだ、と微笑む国原は、どうやらこのお客を気に入ったらしい。
 宜しければ、またのご来店を。
 
top