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「#幼馴染」のBL小説を読む
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足の速さで勝負しようず!

「ほえ面かくんじゃねぇぞ、切々舞」
「何それららーい! 俺が勝ってお前が負ける、これが常識に決まってんだろ?」
 学園の外を一周走って帰ってくる。それが勝負のルールだった。
 切々舞ららいが負ければ十六夜に担担麺五杯とポテチ五袋を奢る。
 十六夜ジャックが負ければ切々舞に親子丼十杯とカルピス十を奢る。
 お互いの財布を空にするべく行うようなこの勝負に、若干、二人の目の色がマジになっていた。
 かたや下駄履きの和装。
 かたや拘束衣の厚底靴。
 どちらも走りにくい服装だというのに大丈夫なのか、というギャラリーの視線を気にしない二人が、スタートラインにつく。
 十六夜が言う。
「位置について……」
 切々舞が言う。
「よーい」
 そして、二人の声が重なった。
「「どんっ!!」」

 ずどん、と地面を抉るような音が響いた一瞬後には、もう二人の姿はなかった。


 がんがんがんがん、と硬い下駄で地面を踏み抜いて十六夜が走る。三歩程後ろには切々舞の姿があり、和装の少年はそれを振り切ろうと腕を振りぬいていた。
 切々舞はというと、拘束衣で腕を封じられているにも関わらず体の軸はブレておらず、厚底靴だというのに一定の速度で走っている。力任せに走りぬく十六夜を見て面白そうな表情をしている性別不明の彼もしくは彼女が、素早く足を動かしていた。
 コーナーを曲がる。
 未だに十六夜が前を走っている。
 学園の外を半周した。
 その時だった。

「ららーい!! へばって来たかよぉ、いざ何とかぁ!!」

 切々舞のスピードが、一気に上がった。
「いっ!? マジかよ!!」
 焦ってスピードを上げ返す十六夜だが、一気に追い抜かれた今、その差をキープするくらいしか出来ない。
 厚底靴がただのスニーカーにしか思えないくらい速度が上がっていく無頼科の彼または彼女の後姿に悔しさを滲ませ、特殊能力科の雷使いは全力を出した。
「へばってねぇよ、切々舞っ!! てめえこそ、体力使い果たすんじゃねぇぞ!」
 ターボのように放電し、その力で速度を急速に上げる十六夜。
 ようやく隣に並んだ和装の学生に、無頼科の生徒は甲高く笑った。
「ははっ、超ららーい! そう来なくっちゃ面白くねえよ!」
 お互い、譲るまいと疾走を続ける。
 残り四分の一周となった。
 十六夜が抜かしては、切々舞が抜かし返し、また十六夜が抜かし、と物凄いサイクルで順位を交換しあう二人に、ギャラリーはついていけない。
 学園の校門を潜り抜ける。
 相手より早くスタートラインに戻ったら勝利なのだ。

 前傾視線で更にスピードを上げた十六夜がスタートラインへ走りこんでいった。

 それに、切々舞が声をかける。
「良いダッシュじゃん! かーっこ良い! でもなぁ、俺の方が強くて速いっていうのが常識で、当たり前で、普っ通な!」
 切々舞の姿勢が、変わった。
 踏み抜く力がいっそう強くなる。

「世の、理(ことわり)なんだよぉ!!」

 長い髪が水平を描き、切々舞の姿が前方へ吹っ飛んでいった。



「……お前、よく食えるよなぁ」
 不貞腐れたように敗者が言う。
 どんぶりが四つ重ねられている。それを見て悔しげに舌打ちをする敗北者は、勝者の食べっぷりに財布が壊滅した事を実感した。

「手も使わずに親子丼平らげる奴、初めて見たぜ」

「ららーい! 気にしたら負けだぜ敗北者! あ、もう負けてましたねー? すいまっせーん!」
「くそ、ムカツク!」
 カルピスのおかわりが運ばれてくる。
 注文した際に全ての料金を払ったので、今、十六夜の財布の中身は、十円玉三枚と一円玉一枚という、悲しい光景だった。本当に悲しかった。
 寧ろ空しかった。
「おい、なあ、もしもし負け犬ちゃん? また奢らせてやっても良いよ。俺って優しくね? 超優しくね!?」
「ど、何処がだ畜生ーっ!!」

 この勝負、切々舞ららいの勝ち。
 
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