大寺の友達事情
友達になろう。
その言葉をどれ程待ち望んでいたか。
今まで無理やりに作ってきたトモダチには申し訳ない事をした、と大寺はスカートのポケットをまさぐった。
ゴテゴテした煌びやかな手帳。ラメ入りのシールや文字で彩られた悪趣味な外見の、そして、悪趣味な内容のそれを持ち、大寺は相芥叉から離れる。
「麗佳?」
首を傾げて様子を窺う相に、大寺は振り向かない。迷う事なく教室の入り口まで足を進め、そして。
扉付近に置かれたゴミ箱に、手帳を放り込んだ。
「……知ってる? あたしの能力」
突然そう言えば、相は大寺が何を言いたいのかを理解するために、黙って言葉を待ってくれる。大寺はゴミ箱に背を向けた。
「影を、操るのよ。あたしね、この能力が好きじゃなかったの。だって影なんて地味じゃない? 目立たない存在みたいで気に食わなくって」
でも。
そう続けた口の端がわずかに上がっているのを、相が見た。一平屋が頬杖をつきながら、二人を眺めて口元を緩める。
大寺が顔を上げた。
苦くはあったが、精一杯の笑みだった。
「今のあたしじゃなかったら芥叉に会えなかったって思うと、それも良いものよね?」
相に近づき、手を差し出す大寺は、その時初めてまっすぐに彼を見た。
目を逸らさずに、今度は大寺から誘いをかける。
「ねえ、友達になった記念に握手でもしない?」
「勿論」
にっこりと笑った彼が、大寺の手を握り返してくれた。
彼の手は温かで、視線も温かで、大寺は、出来ることならばもう少し早く気付きたかったと、そう思った。
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