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十六夜の頭がまたスポーンって

「あーあーあー……ったくよ!」
 兄への愚痴を零しながら、柄の悪い少年は科学技術推進科を後にしていた。

 強化スーツが壊れるまで何の連絡もなかった事。
 満身創痍に違いないのに殴り合いの喧嘩をした事。
 窓ガラスを木っ端微塵にしてしまった事。
 結構色んな事情を叱られた。
 鬼の様な形相(といっても表情は変わらないので、詰まる所雰囲気)で説教を繰り出す明星に何も返せず、ただ項垂れて突っ立っているほかなかった。
 真島はそうガミガミと叱るタイプではなかったが、代わりに諭すような口調で『どれ程周りに心配をかけたか』を語られたので、こっちはこっちで堪ったものではなかった。
 強化スーツ大破の件に関しては
「君ならそのうちやると思った」
 と何とも素敵な未来予測をしていたらしく、どちらかと言うと苦笑いで済ませてくれたのが救いである。

 そうしてボルトと仲良く説教を受け、解放された際に貰った服を着て、今に至る。


「兄貴は何でああも口煩ぇーかな!っつうかよくあんなに口回るよな。説教の尽きねえ事尽きねえ事!」
 自業自得極まりないのだが、次男は兄の生真面目さと説教の長さについて文句たらたらだった。全て十六夜のためを思えばこそ、と厳しく言う明星の心を微塵も察していないような、分かってるんだけど反発する思春期のような、微妙な心持である。
 十六夜が歩くたびに、袖が揺れる。
 今度の衣装は布製だった。
 ただの布ではない。特殊繊維で作成された強化衣装である。らしい。
 普通の衣服と比べれば異常に頑丈であり、それでいて動きを邪魔しない、服飾科にいる国原の友人が丹精込めて、尚且つ萌えも込めて作り上げてくれた代物だという。
 十六夜曰く、萌えは込めないで欲しかった。
 国原曰く、萌えは込めないで欲しかった。
 二人の切なる一つの願いがあっさりと無視された作品だ。
「大体さ、ボルトはガラスだけを怒られて、他全部俺が説教されるっておかしいだろ!あいつが俺のスーツ壊したんだぜ!?マジで有り得ねえ」
 ボルトが壊したというか、ボルトの攻撃で壊れるまで放置していたというか。
 頭から湯気を出しつつずかずかと歩く十六夜は、人ごみを掻き分けて、感情のままに進んでいく。
 今はただ真っ直ぐ歩きたい気分だった。
 のを。
 ストップさせる影が見えた。

 灰色のロングヘアーをなびかせ、歩く、少女の姿。

「(え……あれって……)」
(冠橋……さん?)
 すぐに彼女へ近づこうと早足になった。
 それが段々と駆け足になり、そして。
 頭に衝撃。
「ふぁー」
 きりっ!
「またてめえかよ!いい加減にしろ!っつうかギャアァまた面取れてやんの!」
 どうやら、十六夜の頭スポーンごっこが楽しくなってしまったようである。
 ハートは誇らしそうに胸を張って、逃げていった。
 多分、また来る。
 畜生。
 慌てて面を被りなおし、十六夜は先程まで冠橋がいた場所へ目を向けた。

「……いねえ……」
 
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