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外道の生まれ方

 逃げるための足が欲しい。
 這いずるための手が欲しい。
 前が見えない。
 何も聞こえない。
 あぁ、あぁ。
 喋れない。


「よ、呼び出したのは※※※です!!」

 こっくりさんをやったそいつは、私の名を出した。鳥居から帰す事が出来ずに渦巻いた怨念を避けられずに怯えていたそいつは、私の名を出した。
 それが全ての始まりで終わりだった。
『呼んだかい』
 呼んでない。
 狸憑きが私の体に飛び込んでくる。
 衝撃と圧迫感に呻き声が出た。頭が熱い。体が熱い。苦しくなるほどの怨念に取り巻かれて息が出来ない。
『呼んだ呼んだ呼んだ呼んだ』
 呼んでないのに。
 喧しく呟き続ける霊が私の右腕に絡みつく。瞬間、激痛。息が出来ないから叫び声も上がらない。ぶぢり、と音を立てて赤いものを撒き散らした私の体が転がった。
『呼んだ呼んだ呼んだ呼んだ?』
 声が出ないのを良い事に喧しく騒ぎ立てる霊が笑いながら私の左腕にしがみつく。もうやめて痛い痛い痛い苦しい!それでもやめてはくれない!ああぁぎちぎちと音がする!ぎぢりりり、と捻られた腕が砕けたように引っこ抜かれる。赤い赤い赤い。
『呼んだ呼んだ呼んだ呼んだ!』
 喧しく決め付けてくる霊が泣きながら私の右足に縋りつく。熱い熱い熱い痛みと共にぢりりり、と刃物のような尖った爪をつきたてられて引きちぎられていく私の足、足……悲鳴が上げられない、血なまぐさい、左足だけで立っていられない。
『呼んだ呼んだ呼んだ呼んだ呼んだ呼んだ呼んだ呼んだ』
 延々と囁き続ける霊が無表情のまま私の左足を掴んでいる。それが無くなってしまえば私は立っていられないというのに。ぎりぎりぎりぎり、と力任せに引っ張られ徐々に切れていく足に別れの挨拶も出来なかった。

『みみちょうだい』

『めだまちょうだい』


『はなちょうだい』

『したちょうだい』

『いぶくろちょうだい』

『はいちょうだい』

『しんぞうちょうだい』

『いのちちょうだい』

 頭に直接響いてくる声声声はぼそぼそと恨み辛みを乗せて私の体をちぎっていく。断る暇もなく、私だったものはぼろぼろのぬいぐるみのように破片をもぎ取られていった。
 残ったのは恨み。
 私に責任をなすりつけたあいつへの恨み。
 逃げるための足が欲しい。
 這いずるための手が欲しい。
 前が見えない。
 何も聞こえない。
 あぁ、あぁ。
 喋れない。

 あいつを呪ってやろう。

 そう思った瞬間、体が燃えるほど熱くなった。焼けて焼けて骨まで焼けるんじゃないかという熱さと苦しみに悶えた。
 体の内部が外部が燃えるように熱く痛いのを意識を失えないまま受けていた私は、やはり責任を押し付けたあいつを激しく恨んでいた。
 頭からめりめりと音がする。骨が軋む。体の中心に鋭い刃が突き立ったような激痛が走った。
「あああぁぁぁああぁぁぁあっ!!」
 苦痛と怨念と呪いと祟り渦巻く叫びをあげた私は。
 私は。
 私は。


 だーぁれだ?

 あっははははは。
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