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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
夏に泥棒が出たのよねぇ(国原家)

「最近お野菜泥棒が出るのよねぇ……」

 それは十年前のこと。
 国原雅が妹である秋に告げるその内容に、秋の子どもである渉と瞳も身を乗り出す。豪農と歌われる国原一族の所有地に入り込む人間などいない。国原が雷獣の血を引いていると、ここら一帯の住人ならば知っているからだ。
 だとすれば妖怪か。野菜を盗んでいく妖怪など聞いたことがない。
「悪ものが出たの、伯父ちゃん?」
 小説投稿雑誌を抱いて不安げに尋ねる瞳の頭を撫で、渉が畑の方へ目をやる。
「そうねぇ、泥棒さんだから、悪者なのかもねぇ」
 のんびりと答える雅に、んな呑気で良いんかい、と秋が突っ込む。
 季節は夏。風に揺られて葉がなびくのを眺めていた渉がふと息を呑んだ。
 畑の野菜たちが不自然に揺れ動いているのだ。
「伯父さん、出たぞ!」
 虫取り網を手に畑へ駆け出す渉。慌てて瞳も続き、二人の母である秋もついていく。
 複数の足音にも動じる様子はなく、野菜泥棒と思しき何者かは其処に座り込んでいた。ぷちり、ぷちりと好き勝手にもいでは齧るそれを見ようと雅が草を掻き分けたその時。

「あらっ」

 他でもない、雅の驚いた声が響いた。
「むちゅむちゅ……あ、おとーさんだ」
 黒い髪に茶色い瞳。麦藁帽子を被った小柄な少女。
 国原文(当時八歳)が、大好きなキュウリを頬張りながら其処にいたのだ。
「あらぁ、文ちゃんだったのねぇ」
 ぱちくりと瞬きを繰り返す雅に、きょとんとした表情を返す文。
 秋がげらげら笑っている中、緑の畑にのんびりした風が吹いた。
 
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