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拒絶スープレックス

 とくとくと水が零れていく音がした。僕の腹からだった。
 ぽとぽとと床に滴る音がした。僕の腹からだった。
 息がしにくい。寒い。体に力が入らない。
 二人に抱えられ、ゆっくりと動く足。
 ぼんやりと滲む視界に、虹色の光が見えた。


「……な、何してるんだよ!」
 次の瞬間、目に入ってきたのは桃色。
 口の端に虹色の残りかすをつけた、桃色の女だった。
 唇をがっつり奪ってくれやがったその女は、別に何でも無いのに第二波をかまそうとしていたから、僕は思わず腕でバッテンを作り、チョップしていた。
 俗に言うクロスチョップだ。
「いやんv」
 何故か嬉しそうにチョップされる桃色の女。
 何こいつ。Mなのか?
 Mといったら、ああ、嫌な奴を思い出した。
「リジェクトさん……!」
「良かった、気がついたのね!?」
 僕の拒絶チョップを見た誰かが安心したように声をあげる。そちらを見れば、嬉しそうに表情を明るくさせている、恩人たちの姿があった。
 再び、助けられたという訳か。
 情けないもんだな。けじめをつけようと死神に挑んだっていうのに、僕は後ろからの凶弾に倒れ伏した。
 ……そういえば。
「腹……穴がふさがってる……?」
 手を当てた先にあるのは、僕の貧弱な腹筋。銃弾が肉を押しのけていった痕跡は全くといって良い程無くなっている。
 桃色の女が口を拭いながら、安静にしていれば全快するわ、といっていた。
 女の口についていた、虹色のかす。
 机に置かれた、空のビン。

「……あいつ」

 不意に、死神を思い出した。
 割と無口なあの男を。
 あの男の腰に下がっていた、ビンの中身を。
「あの死神のような人がくれた薬で助かったのよ」
 学ラン姿の女の人、川越さんだったっけ? 彼女が教えてくれた。
 薬というのは、少し違うかな。
 あれは、きっと……。
「間に合ってよかった。ゆっくり休んで下さいね」
 神代先生が言う。この人の『目』というものが無ければ、僕は今頃死んでいた。
 恩人が、大恩人になる瞬間。
 僕は何としてでも、この二人は守りきろうと、強く決めたのだった。

「や〜んv回復のお祝いに私からのディープキッスを……」

「拒絶ラリアット!!」
 
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