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人参がウフーンとかいう(国原家)

 人の形のようなセクシー人参が会計のすぐ傍に置かれているという、何ともシュールなセンスをした八百屋が開かれていた。
 出し物はその名もずばり「国原さん家の八百屋さん」。
 娘と息子が恥ずかしがる事間違いなしの店名で二階のロビーを占拠する八百屋には、物凄くにこやかな男性と、目つきの鋭い女性が立っていた。
 会計の部分にはのほほんとしたお爺さんお婆さんが座っているので、対照的である。
「いらっしゃいませぇ、美味しいお野菜売ってるわよ〜」
 男性の口から漏れる女言葉。
「らっしゃい、お、あんた特殊能力科の生徒かい? んじゃあ国原ってのは知ってるか? 国原文。あれ、あたしの姪っ子なんだよ」
 女性の口から漏れる男言葉。
 えぇ〜、何これ普通逆じゃねぇ? という突っ込みの視線を全く気にしない二人と、そんな二人に慣れきっているご年配二人という、何とも言えない組み合わせで店は成り立っていた。
「おうちで作った新鮮お野菜なの。形が変だから出荷は出来なかったけどね、味は全く一緒! りんごも美味しい時期になってきたわよねぇ〜v」
 にこにこと愛想よく商品を勧める男性は、国原文の知り合いだという言葉に笑顔を更に深くする。学園できちんと友達を作れているのだと分かり嬉しいのだろう。気前よく値下げ交渉に応じ、おまけなんかもつけていた。
「文ちゃんのお友達……もういないのかしら? 来てくれたら、サツマイモなんかタダであげちゃうのにっ」
「お兄、そうやってタダでタダでなんつって皆あげちまったらさ、店開いた意味ねえべや。規格外っつっても商品だで」
「やぁね、分かってるわよ? 秋もさ、もうちょっと値下げとかしてあげない?」
「商売に手ぇ抜けってか」
「違いますぅ、学生さんはお金が無いの。手助けだと思ってさ。ねぇ?」
 性格が正反対な兄妹だ。この二人を見ていると、性格が正とはいかないが反対な特殊双子を思い出す。
 思い出すも何も、その父と叔母なのだから無理もないのだが。
「そういやぁ、文は何処で店出してるんか」
 会計に座っていた国原の祖父が声をあげた。
「そっさぁ、文に会うっつーんで来たんに、まだ一回も会ってねんさ」
 のんびりと祖母も続ける。
 もうすぐ会えるんじゃないかしら、と国原の父は呑気に返し、祖父と祖母を納得させていたが、もし二人がハロウィン喫茶に来てしまったら、化粧を施した国原を見て唖然とするか、天に召されかけるかのどちらかではなかろうか。
 おめぇこんな顔真っ白くして縁起でもねぇ、と死人メイクをごしごし落とす祖父や祖母の姿が想像できる父は、ハロウィン喫茶のシフトが終わるまでは居場所を教えないように気を遣っていたのだった。
「廊下で文ちゃんをみかけたんだけどね、あの子、ホラーっぽいお化粧してたのよ。ハロウィン喫茶ですって。洒落てると思わない?」
「はー、すげぇんな。其処でうちの野菜使って貰えれば宣伝になるんにな?」
「だけどお父さんたちをあそこに連れていったら、死人の格好して何してんだー、なんて、生徒さんたちを困らせちゃいそうでねー……」
「じーちゃん、はぁ、けぇるべぇや、なんつって文と話できねえで終わるようだぃな」
「そうよぉ」
 なんというか、方や荒っぽい話し方、方やなよなよした話し方という二人組みが接客をしているので、絡みづらい雰囲気がなくもない気がする。
 二階ロビーに出来た八百屋は、のんびりと、ゆっくりと、学園祭の空気を味わっていた。

 因みに、国原文のお友達が来店すると、野菜を色々とおまけされてしまうので気をつけて頂きたい。
 
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