骨のような手じゃ何も出来ない(御境)
思い出そうにも思い出せる記憶がない。
あの場所は見知っているのに、あの場所で起こった出来事を知らない。
あの場所が第二の定位置な筈なのに、あの場所では何も出来ていない。
目の前の白に、出て来るのは溜め息だけ。
十字に広がる赤に、出て来るのは涙だけ。
あの人の苛立った表情しか思い出せないのは自分の業の深さ故。
鉛でも呑んだかのような心苦しさに逃げ出したくなるが、きっとこれは逃げられない定めなのだろう。
紋章が踊る。
陣が自身を主張する。
分厚い書物に目を落とし、そして、諦めた。
無理なのだ。
自分には出来ない。
「課題が終わらあぁーん!!」
半ば泣き声に近い叫びをあげた茶々彦が、愛する恋人であり主人である長峰嘉樽に泣きつくまで、あと五秒。
← →